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妖怪・風習・伝奇

風内 鈴夏さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

葬礼
短編 2026/07/15 21:13 72view

民俗学を専攻する大学院生のM君は、数カ月前にダムの底に沈むことが決まった、ある山奥の廃村を訪れました。

すでに住民は全員立ち退いており、誰もいないはずの集落です。

M君の目的は、その地域にだけ残る独自の「葬礼(お葬式の風習)」を調べることでした。

夕暮れ時、M君は村の外れにある古い寺を見つけました。

本堂の引き戸は朽ち果て、中は薄暗く荒れ果てています。

彼が懐中電灯の明かりを頼りに、位牌や古い古文書を探していると、本堂の奥にある「開かずの間」のような頑丈な物置小屋に突き当たりました。

その小屋のドアには、太い注連縄(しめなわ)が幾重にも巻き付けられ、錆びついた大きな錠前が3つも掛けられていました。

普通なら恐怖を感じて立ち去るべきところですが、研究欲に駆られたM君は、近づいて観察を始めてしまいました。

注連縄の一部は経年劣化でボロボロに千切れています。

木製のドアには、経年で木が歪んだのか、指が一本入るほどの隙間ができていました。

M君は懐中電灯の光をその隙間に差し込み、片目を押し当てるようにして中を覗き込みました。

中は四畳半ほどの狭い空間でした。

家具などは一切なく、部屋の中央に、ホコリを被った大きなお盆のようなものが置かれています。

その上には、人間の頭ほどの大きさの「丸い何か」が、赤黒い布に包まれて鎮座していました。

(これは、この村の土着信仰の神体か何かか……?)

M君がじっとそれを見つめていた、その時です。

「ズ、ズズ……」

不意に、部屋の奥の暗闇から、何かが床を這うような音が聞こえました。

M君は心臓が跳ね上がるのを感じながらも、目を離すことができません。

暗闇からゆっくりと這い出てきたのは、異常な姿をした老婆でした。

手足が昆虫のように奇妙な方向に曲がっており、骨と皮だけの体で、蜘蛛のように床を這っているのです。

老婆は、部屋の中央にある赤黒い布の塊に近づくと、それを愛おしそうに撫で始めました。

M君は恐怖で全身の血が凍りつき、息をすることすら忘れていました。

(早くここを離れなければ。見つかったら殺される)

そう本能が告げているのに、体が恐怖で一歩も動きません。

すると、老婆がピタリと動きを止めました。

そして、ゆっくりと、本当にゆっくりと、首をこちらへ向けてきたのです。

その首は、人間の可動域を超えて、真後ろにまでグルリと回転しました。

老婆の顔には、目がありませんでした。

くり抜かれたような暗い穴が2つ、ただ開いているだけです。

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