これは私が一人暮らしを始めたばかりの頃に経験した話です。
大学進学を機に、私は都内の安いアパートに引っ越しました。
築年数は古いものの、家賃が安くて駅からも近い物件で、 内見の時は特に気になる事もなく、すぐに契約を決めました。
引っ越し初日、荷物を整理していると部屋の隅から少し変わった香りがするのに気がつきました。甘いような酸っぱいような、独特の匂いでした。
古い建物だから仕方ないのかなと思い、窓を開けて換気をしたりしたのですが、匂いは消えませんでした。
特に匂いが強いのは部屋の奥にある押し入れのあたりで、中を調べても特に異常はなかったのでそのうち慣れるだろうと深く考えていませんでした。
それから1ヶ月ほど経ち、私はその匂いに慣れたつもりでいたのですが、友人を部屋に招いた時に「この部屋なんか変わった匂いするね」と言われたことで、また気になり始めました。
「古い部屋だからか換気しても消えないんだよね」などと説明すると、友達は押し入れを指差し
「あっちからしない?」と言いました。
私も薄々そう感じていたので、
「今度掃除でもしてみようかな」などと話しました。
次の日に、私はその押し入れを掃除することにしました。中の荷物を全て出して床や壁を拭きましたが、その時は特に汚れや変なものは見つけられず、掃除を終えた後も匂いは消えませんでした。
それからしばらくして、夜中にふと目を覚ますことが増えました。
何故かはわかりませんでしたが、妙に押し入れの方が気になって、じっと見てしまうんです。
もちろん押し入れは閉まっているし、何かが動くわけでもありません。
そんなある日、ついに押し入れの中をきちんと調べてみることにしました。何もないだろうと思いつつも、妙に気になって仕方がなかったのです。懐中電灯を持って押し入れを開け、中を照らしながら詳しく調べました。
すると、押し入れの奥の隅、天井に近いあたりに小さな穴が開いているのを見つけました。
大体直径1センチ程の円い穴で、何かが突き刺さったような跡にも見えました。そして、そこからあの独特な匂いが漂ってきている事に気づきました。
私はすぐに管理会社に電話し、その穴のことを伝えました。古い建物だから何かの配線の跡かもしれないとのことでしたが、一応業者を手配して見てもらうことになりました。
その日はあの押し入れのことが気になって眠れませんでした。昼間に穴を見つけたせいで段々不気味に思えてきたんです。
そのまま日付が回った頃、不意に押し入れの方から音が聞こえたのです。
思わず布団から飛び起きて懐中電灯を持ち、押し入れの前で息を潜めていると、再び音が聞こえ、意を決して押し入れを開けると、穴の方から「カサッ」と奥で何かが動いているような、微かな音が聞こえました。しかし、その後は音がしなくなり、虫がいるんだろうと思うことにし強引に眠りにつきました。
その日の昼に管理会社の業者が来てくれたので、例の穴を調べてもらうと、なんとその穴は隣の部屋まで繋がっていたとのことで、古い物件なので配管や配線のための空間がそのまま残っていたらしいです。
さらに驚いたのはその隣の部屋は空室であり、誰も住んでいないはずの部屋から匂いが漏れてきているということになります。
そのまま業者が隣の部屋を開けて調査することになり、私も気になったのですが、立ち会いはできないということで、私の部屋で待機していました。
数時間後、調査が終わったようで業者に結果を尋ねると、漏れていた匂いの正体がわかりました。
まず、部屋の中には床一面に古い布や紙が散乱しており、その上にいくつもの古い香水の瓶が転がっていたとのことです。その中身が腐敗していたのか、それで甘酸っぱいような匂いが充満していたということです。さらに奇妙だったのが、部屋の真ん中に古い人形が置かれていたそうで、かなりリアルな作りで人の子供が座っているかと思ったそうでした。
管理会社の人は「前の住人の忘れ物かもですね」と言っていましたが、聞いた部屋の状況は普通じゃありません。どうやらその部屋は数年前から空き家だったらしく、前の住人が何をしていたのかはわかりませんでした。
それから少しして、私は引っ越しました。管理会社は問題ないと言っていましたが、あの部屋の事を考えると、もうそこで暮らす気にはなれませんでした。


























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。