奇々怪々 お知らせ

不思議体験

坂口瑠花さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

後頭部を数える人
短編 2026/07/09 21:09 40view

去年の秋の話です。

うちの祖父が亡くなって、母方の実家の静岡県で葬式がありました。自分はずっと東京で育ってたから正直あんまり土地勘がないです。新幹線で最寄り駅まで行って、叔父に車で迎えに来てもらいました。田んぼと山しかないところでした。

葬式は三日かけてやって、親戚一同がわいわい集まって、久しぶりに会う従兄弟とかと話したりして、悲しいんだけどどこかお祭りみたいな雰囲気もありました。祖父はもう八十七歳で大往生だったから、泣き崩れる人もあんまりいませんでした。

問題はその帰りの話です。

最終日の夜、片付けが終わって叔父の家に泊まることになりました。叔父は昔からビデオとか撮るのが好きな人で、今回の葬式もちゃんと記録として撮影してくれてました。「後でみんなに配るから」って言ってて、告別式の映像とかをノートパソコンで整理してるのを横で見てました。

そのとき叔父が「あ、これなんだろ」って言ったんです。

デスクトップにUSBメモリのアイコンが出てました。叔父が「ああ、こないだ職場の人に借りたやつかな」って言いながら開こうとしました。でも開けなくて、「パスワードかかってるな」とかぼやいてました。その日はそのまま寝ました。

翌朝、自分は電車で帰る予定だったんですが、朝早く目が覚めてしまって、リビングに降りたら叔父のノートパソコンがまだ開きっぱなしになっていました。叔父はまだ寝ていたので、勝手に触るのもどうかとは思いましたが、画面を見たらUSBメモリのフォルダが開いた状態になっていました。夜のうちに叔父が解除したまま寝落ちしたんだと思います。

好奇心に負けて、開いてしまいました。

中には映像ファイルが一個だけ入っていました。再生してみると、ガラケーで撮影した感じの画質の粗い葬式の映像でした。でも、うちの祭壇じゃないし、見覚えのない場所です。祭壇の感じも部屋の雰囲気も、うちとは全然違います。ファイルの詳細を見たら、更新日時が二〇〇七年になっていて、それも変だなとは思いました。

ただ、内容がどうにも腑に落ちませんでした。

最初は普通の葬式の映像に見えました。参列者が椅子に並んで座っていて、前のほうに祭壇がある。でも、カメラが一向に祭壇を映さないんです。ずっと、参列者の後頭部を映し続けています。

最初は単に撮影が下手なのかと思っていました。でも、見ていると、これは下手なんじゃなくて、意図的にそうしているとしか思えなくなってきました。カメラがゆっくりと横に動いて、一人一人の後頭部を順番になぞっていくんです。まるで、並んでいる人の中から誰かを探しているみたいに。

前の列を端から端まで映し終わると、次の列に移ります。また端から端へ。それを繰り返していきます。誰かが振り返るわけでも、立ち上がるわけでもなく、参列者はみんなじっと前を向いたままです。読経の声だけが続いていて、他の音がほとんど入っていません。

途中で一度だけ、カメラが遺影の方向に向きました。でもそこでピントがぼやけて、顔がはっきり映らないまま、またすぐ参列者の後頭部に戻ります。その繰り返しが、五分近く続きました。

誰かを探しているのか、それとも確認しているのか。見ていて、言葉にできない不快感がありました。怖いというより、見てはいけないものを見ているような感覚でした。

そこで突然、画面が暗くなりました。

数秒して、また明るくなると、外の映像に切り替わっていました。夜で、懐中電灯らしき明かりが地面を照らしながら進んでいきます。足音と、風で木が揺れる音だけがずっと続きます。人の声は一切入っていません。

その道をしばらく歩いていくと、やがて鳥居らしきものが見えてきました。かなり古くて、片方が傾いていて、朱色もほとんど剥げています。奥には小さな社があって、屋根の一部が崩れているのが懐中電灯の光でぼんやりわかりました。廃神社、という言葉が頭に浮かびました。

そのままカメラがゆっくり社に近づいていって、最後にぐっとズームしました。社の手前で白く何かが反射したと思ったらズームしたまま数秒静止して、そこで映像がぷつっと切れて終わりました。

見終わって、しばらくそのまま座っていました。変な映像だとは思いましたが、そのときはまだ、誰かが心霊スポットを撮りに行ったついでに葬式の映像もくっつけた、そういう類のものかと考えていました。

しばらくして叔父が起きてきて、パソコンの前に座っている自分を見て、少し間があってから「ああ」とだけ言いました。何か言いたそうな顔をしていましたが、自分もうまく言葉が出なくて、そのまま朝ごはんの話になりました。

その後、叔父にあの映像のことを聞こうとしたことが一度あります。でも「あのUSB、もう処分したよ」とだけ言って、それ以上は話しませんでした。何があったわけでもないのに、なんとなく聞けなくなりました。

このUSBメモリが誰のもので、いつどこで撮られたものなのか、今でもわかっていません。あの後頭部を順番になぞっていくカメラの動きが、何を映そうとしていたのかも。
結局、あの映像が何だったのか、自分にはわからないままです。

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