仕事の都合で、今の家に引っ越してきた直後の話です。
前に住んでいた部屋は家具家電付きの賃貸で、急な異動だったこともあり、
引っ越してすぐは冷蔵庫も洗濯機も無いような状況でした。
となると、食事は外食か、コンビニで温めてもらう弁当なんかになるわけです。
洗濯においても、近所のコインランドリーを利用しなければならないので、
引っ越してからちょうど三日経ったころ、歩いて五分ほどのコインランドリーへ向かいました。
それなりに年季の入った外観のコインランドリーに到着した私は、
持ってきた衣服を洗濯機に押し込み、店内の椅子に腰かけ、
洗濯が終わるまでスマートフォンで映画を見ることにしました。
洗濯が終わり、衣服を取り出そうと席を立ち、洗濯機のフタを開けたところ、
がしっ、と腕を掴まれました。
それは、私の服です。
そう言ったのは、夏だというのに薄茶色のトレンチコートを着た、背の高い女性でした。
困惑した私は、まず掴まれた腕を振り払い、彼女の顔に視線をやりました。
どこを見ているのかわからない、濁った眼。
力の入っていない、少し開いた口。
不気味なほどに青白い肌。
恐怖を感じながら、特になにもせず立ち尽くすだけの彼女から逃げるように、
私は衣服を回収してコインランドリーから逃げました。
変な人がいる地域に異動になってしまって災難だな、
もうあのコインランドリーには行かないようにしよう。
そんなことを考えながら私は帰路につきました。
翌朝のことです。
朝食を済ませ、着替えをしようと思った私はクローゼットを開け、
掛けてあった半袖のワイシャツに手を伸ばしました。
するとクローゼットの奥からずるっと腕が伸びてきて、
私の手首を掴みました。
骨に皮を貼りつけただけの、とても細い腕。
昨日と同じように私はその腕を振り払い、シャツをクローゼットから取り出しましたが、
私の胸は恐怖に高鳴り、シャツを持つ手の震えが止まりませんでした。
このシャツを手元に置いておいてはいけない。
そう直感した私は、朝の身支度もそこそこに部屋を飛び出し、
駅と反対方向にあるあのコインランドリーに向かいました。
これは、あなたの服です。
そう心の中で念じながら、私は店内の忘れ物カゴにシャツを置き、立ち去りました。























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