看護師として病院勤務していた頃の話です。
あれは一月の寒い日でした。
80代の女性Aさんが緊急入院されました。
その方は一人暮らしで、こたつに入ったまま何らかの原因で動けなくなり、数日その状態だったので下半身は低温やけどで皮膚が広範囲にただれていました。発見された時は意識不明で、入院時も反応がない状態でした。
個室に入院され、意識不明のまま数週間経ちました。
患者さんにケアをする時は、意識がなくてもきちんと声掛けをしながら行います。Aさんは開眼もせず、声を出すこともありませんでした。
Aさんが入院してしばらく経ったある日のことです。
その日は私は夜勤でした。
Aさんはいつもと変わらず、反応がないまま夜は過ぎました。
朝になり、患者さんの検温に回ります。
私はいつものように反応はないだろうと思いながら、Aさんに「おはようございます。Aさん、聞こえますか?」と声をかけました。
すると「…聞こ…え…てる…よ」と小さな声が聞こえたのです。失礼ながら、私はゾッとしてしまいました。
もう一度声をかけてみましたが、反応はありませんでした。
その日から2〜3日に一度、短い言葉を喋るとこがありました。時折開眼していますが虚露な目でどこか一点を見つめているだけです。
Aさんは不動産を持つ資産家だったようです。息子とは長い間音信不通で、姪っ子さんが時々面会に来てくれていました。
他の病院に転院する方針となり、その姪っ子さんが色々と手続きをしてくれていましたが、転院間近という時に、長年音信不通の息子から姪っ子さんに連絡があり、その後のことは息子が引き受けることとなったそうです。
おそらく遺産目的なんだろうと思います。
きっと、Aさんは全てわかっているのでしょう。






















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