序章:真夜中の囁き
「絶対に、やっちゃいけないよ」
そう釘を刺されたのは、小学生の時にネットの掲示板で知った、とある都市伝説の遊びだった。一人暮らしを始めて、深夜にふとそれを思い出してしまった。手元には、もう使わなくなった古いぬいぐるみ。ぼろぼろのテディベア。
好奇心と、少しの退屈。その二つの悪魔が耳元でささやき、俺の理性を蝕んでいった。
「たかが、遊びだろ」
そう言い聞かせ、俺は必要な道具を用意し始めた。
第一部:儀式の始まり
真夜中の2時。リビングには、テレビの砂嵐音だけが響いている。ぬいぐるみの腹を裂き、綿を抜き、代わりに米と自分の爪を入れた。赤い糸でぬいぐるみの腹を縫い合わせ、最後に残った糸で全身をぐるぐると縛る。そうして完成した異様な物体を、俺は少しの恐怖心とともに見つめた。
儀式は進む。風呂場に水を張り、ぬいぐるみを沈める。名前を呼び、鬼であることを宣言する。
「鬼は、俺だ」
そして、風呂場から逃げる。隠れ家は、押し入れの中。塩水を入れたコップを片手に、息を殺して潜んだ。
第二部:異変
家の中の気配が変わった。心臓が早鐘を打つ。遠くから、何かを引きずるような音が聞こえる。壁が、床が、ミシミシと鳴る。
「探しに行くぞ」
遠くから、自分の声が聞こえた。それは、どこか歪んでいて、耳障りだった。恐怖に支配され、俺は押し入れの中で震え続ける。しかし、それだけでは終わらなかった。
「みーつけた」
今度は、押し入れの扉のすぐ外から声が聞こえた。それは、さっきの声よりももっと近く、そして、より歪んでいた。
第三部:対峙
扉の向こうから聞こえる音が、徐々に大きくなる。ギシギシと扉が揺れ、何かを押しつけられているかのような感覚。恐怖のあまり、俺は叫ぶことすらできなかった。
「出てこいよ」
声は、もう俺のものとは似ても似つかない。粘っこく、湿ったような、不快な声。
扉が勢いよく開き、顔色の悪い、目の窪んだテディベアが立っていた。手には、俺が使ったはずの包丁が握られている。
結末:脱出
恐怖の極限。俺は、持っていた塩水を浴びせかける。
「参りました」
その言葉を叫びながら、俺は玄関へ向かって駆け出した。だが、足がもつれて、転倒する。振り返ると、テディベアがすぐそこまで迫ってきていた。
その時、携帯電話が鳴った。友人からの着信。その瞬間、テディベアは動きを止め、元の姿に戻った。
朝が来る。朝日が差し込む部屋には、何もなかった。ただ、風呂場に沈んでいたテディベアが、少しだけ濡れていた。
あれは、夢だったのだろうか。俺は、安堵しながらも、得体の知れない恐怖に震えていた。あの夜から、俺は決して一人では眠れなくなった。それは、俺が都市伝説に手を出した代償だったのかもしれない。























これは降霊術です。絶対にやらないでください。
※やって何かが起こっても責任を負いません。