あれは、僕が大学の夏休み、実家に帰省していた時のことだった。
実家は、山間の集落にある古い一軒家だ。周囲には田んぼと森しかなく、夜は漆黒の闇に包まれる。夏とはいえ、夜になると肌寒いほどだった。
ある日、僕は幼なじみのケンジから連絡をもらった。
「なあ、おまえ、あの『赤い家』の話、知ってるか?」
赤い家。その言葉を聞いた瞬間、僕は背筋に冷たいものが走るのを感じた。集落の北の外れにある、誰も近づかない廃屋だ。その壁は、なぜか赤く塗られていて、異様な雰囲気を放っていた。
ケンジは続けた。「最近、あの家で妙なことが起きてるらしい。夜になると、中から笑い声が聞こえるって…」
僕たちは興味本位で、その晩、懐中電灯を持って赤い家へと向かった。
赤い家は、想像以上に不気味だった。月明かりに照らされた壁は、まるで血の色のように赤く見えた。窓はすべて板で打ち付けられ、中を窺い知ることはできない。
しかし、僕たちは建物の裏に、わずかに隙間のある板戸を見つけた。
「ここから、中に入ってみようぜ」と、ケンジが囁いた。
僕たちは戸をこじ開け、中へと忍び込んだ。
家の中は、埃とカビの匂いが充満していた。懐中電灯の光で照らすと、床には割れた家具や散乱したゴミが転がっているのが見えた。
奥へ進むと、ひとつの部屋にたどり着いた。壁には、無数の子どもたちの落書きが描かれていた。どれも奇妙な絵で、子どもたちが何かに怯えているように見えた。
その時、僕たちの背後から、子どもの声が聞こえた。
「ねぇ、あっちで遊ぼうよ」
振り返ると、誰もいない。
「気のせいだよ」と、僕たちは互いに言い聞かせた。
だが、再び声が聞こえた。
「ねぇ、もっと近くに来てよ」
今度は、声が部屋の中央から聞こえてくる。
僕たちは恐怖で身動きが取れなくなった。
すると、突然、懐中電灯が消えた。
漆黒の闇の中、僕たちは息を潜めた。
その時、僕の耳元で、子どもの囁き声が聞こえた。
「見ぃつけた」
次の瞬間、僕は後ろから何かに強く引っ張られるのを感じた。
僕が叫ぶ間もなく、僕は床に引き倒された。
ケンジも同じように、どこかに引きずられていくのが分かった。
「やめろ、やめてくれ!」
僕が必死に抵抗すると、腕に鋭い痛みが走った。





















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