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不思議体験

よなかさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

母の手料理
短編 2025/09/11 00:42 10,822view
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母が亡くなって、三ヶ月が経った。

 実家は解体され、冷蔵庫の中身も、形見の服も、全部片づけた。
 ようやく生活が落ち着いてきた頃、宅配ボックスに段ボールが届いていた。

 宛名は、わたしの名前。差出人には、母の名前。
 手書きの丸い文字。すこし滲んでいた。

 開けると、ふわりと匂いが広がった。
 甘めの筑前煮。こんにゃくの下に隠れた、ごぼう。
 母の味。見間違えるはずがない。

 思わず箸を伸ばした。口の中に、ぬるい温度と、しょっぱさと、懐かしさが広がる。

 涙が出た。味は、確かに、母だった。

 けれど──

「ねえ……これ、どうやって送ったの?」

 スマホの中の連絡先は、もう呼び出せない。
 親戚に訊ねても、誰も知らないという。
 実家の住所にはもう誰も住んでいない。

 その夜は眠れなかった。

 次の週。
 また、同じ箱が届いた。

 今度は、おでん。大根がやわらかく、練り物には、母のよく使っていた「銀杏はんぺん」が入っていた。
 見たことのあるタッパー。取っ手の割れ目も、知っている。

 箱には何も書かれていない。ただ、白い紙にひとこと。

《おかえり》

 それから、毎週土曜。
 必ず、同じ時間に、同じ箱が届いた。

 きんぴらごぼう、豚汁、ひじき煮、たまご焼き。

 どれも、母の味。
 レシピも覚えていないのに、舌が知っている。
 そして箱の底には、いつも「おかえり」の紙。

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コメント(2)
  • あまりこわくない

    2025/09/17/14:33
  • よかったね

    2025/09/22/18:03

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