奇々怪々 お知らせ

心霊

nickningenさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

小さな手
長編 2025/08/07 02:37 1,691view
0

車窓の外を高速道路の街灯が白い尾を引いて流れていく。
カーオーディオから流れるFMの軽快なジングルとDJの声。
その直後、流行りの曲のイントロが車内に虚しく響く。
「死刑囚の記録収集業務ねぇ…。」
後輩の根津が運転しながら渋い表情で呟く。
根津の気が滅入ったような表情が私を愉快な気持ちにさせた。
「18人も殺して自首したなんて、とびきりの逸脱者ね。
貴重な記録でしょう。
正直、少し楽しみだわ。」
日本記録情報庁の記録員という立場でも、なかなかこのレベルのシリアルキラーと接触する機会は少ない。
「やっぱ先輩って、こういうヤバそうな仕事が好きなんですね〜。
正直、そう思ってました。」
確かにその通りなのだが、見透かされているようで癪に触った。
「なぜ、そういう認識なのか腑に落ちないけど、
普通に生活してたらお目にかかれないような感性の人間と接することができるのが、この仕事の楽しいところよ。」
一度しかない人生なら、特別な経験をするに越したことはない。
例えそれが、シリアルキラーとの邂逅であっても。
「とはいえ…正直、面と向かって言葉を交わすのは少し怖いわ。」

一体どんな記録になるのか想像もつかなかった。
「先輩にも怖いものがあったんすね。」
根津の呟きが車内の隅まで薄く広がった。
「聞こえてるよ。根津くん。
私もシリアルキラーを相手にするのは初めてなの。
未知を恐れるのは人間の本能よ。」

とある拘置所に到着した。
拘置所の厳かな白が影に沈み、ところどころを照らす照明がその白を浮き彫りにしていた。
この棺には”その日”を待つ罪をいくつ納めているのだろうか。
車を降り、拘置所の受付へ向かった。
「日本記録情報庁の鹿島と根津と申します。」
私たちは記録員証を受付の男性に見せた。
「取次ぎいたします。少々お待ちください。」
受付が奥に引っ込み、しばらくすると奥から大柄の男が出てきた。
「お待ちしておりました。所長の山上と申します。
中原さんとの面会と伺っております。
ご案内いたしますので、こちらへどうぞ。」
鉄の扉を開ける音が重苦しく響いた。

3人は拘置所の奥へと歩く。
「中原さんはどのような方でしょうか?
何か接する上での注意点はありますか?」
繊細な人間の逆鱗に触れてしまうと、記録収集に支障をきたす。
「特にありません。中原さんは怒ったりしたところは見たことがありません。
どこか空虚で…。
何かが欠けてしまっているような…。
ただ、質問には誠実に答える姿勢があるように見えます。」
質問に答えてくれるならありがたい。
ヒールが硬い床を叩く音が拘置所内を反響していた。
「どうぞ、こちらでお待ち下さい。」
面会室は簡素な椅子が3つ置かれていた。
1つはガラスの仕切りの向こう側。
残りはこちら側に置かれ、私たちはそこに座った。
「さすがにちょっと緊張してきました。」
と根津の表情が若干強張っている。
普段はのらりくらりと掴みどころがないが、殺人鬼との面会はさすがに緊張するようだ。
その様子を見て、私の肩の力が抜けてきた。
「実際、会話をするのは私だから大丈夫。あなたは記録収集に集中して。」

1/3
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。