私は映画が好きで、特に低予算で作らられたB級やZ級映画が好きだ。
低予算ながら情熱と誠実さで名作と言って差し支えない掘り出し物や、あまりにもツッコミどころが多く笑える迷作がある。
全く楽しめないものは意外と少なく、どんな映画にも真剣に取り組んだ誠実さや情熱は感じられる。
たまに、人生の2時間をドブに捨てるような空虚な映画が存在する。
このギャンブル感が好きなのだ。
電車で10分程の都市部の路地に古ぼけたミニシアターを偶然見つけた。
シアターの周りは色褪せた看板のスナック、個人経営の居酒屋、読めない名前のBar、古ぼけた中華屋、小さいオフィスビルなどが並んでいる。
古ぼけた白いビルの入り口には見たことも聞いたこともない映画のポスターが幾つも貼られていた。
都会のオアシスがこんな近場にあったとは。
白地に「Cinema Witch’s Rain」と筆記体で黒く書かれた看板が入り口の上にある。
携帯で調べてみたが、ヒットしない。
それほどの穴場だということか。
上映スケジュールも分からない。
今は何が上映されているか、それだけでも確認してみよう。
両開きのガラス扉を開き、中に入る。
外の蒸し暑い湿気から解放され、涼しい空気と共にむっと木の匂いが鼻腔を通過する。
床全体が赤い絨毯で木製の壁からはレトロな印象を受ける。
アンティーク調の照明で統一されていて、薄暗い。
ここが古ぼけた白いビルであることを忘れさせる非日常がそこにあった。
受付の前にウォールナットで縁取られた黒板が黒い鉄の三脚に立てかけられていた。
そこに今日の上映スケジュールがチョークで書かれていた。
一番近い上映時間の映画は『君を撮る』か。
邦画だというのは分かるがジャンルはタイトルからは予想できなかった。
偶然の出会った映画が自分の価値観に響く名作である可能性に期待していた。
受付まで歩く。
受付の女性の顔がこちらに向く。
透き通るような美人だ。
艶やかな黒髪は後ろで纏められている。
スッと通る鼻筋、目は切れ長で涼しげな印象を受けた。
唇は健康的で艶やかな赤みを帯びている。
赤いジャケットに白いブラウス。
大きめの黒いリボンタイがしなやかな細く白い首元を強調する。
「『君を撮る』を大人一枚で。」
心拍数が上がるのを感じる。
「大人一枚で2000円でございます。」
月明かりのような静けさを含む落ち着いた声だ。
濃い色の鉄製のトレーに2000円を置く。
「ちょうどお預かりいたします。
こちらチケットでございます。」
横長でクリーム色のチケットの左上に「Cinema Witch’s Rain」と筆記体で書かれている。
中央に映画タイトル。
映画タイトルの下に「シアター1 自由席」と書かれていた。
「どこに座ってもいいんですか?」
「はい、現在はお客様の貸切状態でございます。
お好きなお席にご着席下さい。
21時より上映いたしますので、それまでにご着席お願いいたします。」
そう微笑む彼女の美しさにドキリとしてしまった。























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