分厚い雨雲が私に覆い被さるようにして、その涙とも汗とも分からないものを私に打ちつけていた。
雨粒が傘を打つ音が私をこの世界から切り離してしまったような気がした。
地面から跳ね返る飛沫は救いを求めるように私の足に纏わりついていた。
私の活力も雨水と一緒に道路脇の排水溝に流されていった。
学校へ向かう足取りが鈍い。
「雨か…。」
幼い頃に祖母から聞いた話を思い出す。
「雨の日には用心しなさい。その雨の日はあっち側と繋がる。
雨の帳の向こうに何か見えたらこのお守りを強く握りなさい。」
落ち窪んだ祖母の目。
古びた日本家屋の影が祖母に纏わりついているようだった。
「どの雨の日?あっちってどっち?」
幼い私が祖母に問う。
「その日が来れば分かる。」
祖母の目はどこか遠くを見て、何かに祈るようだった。
その目の奥に私は言い知れない不安を感じた。
その時の祖母の様子は棘のように私の胸に刺さって抜けなかった。
私は母に祖母から聞いた話をした。
「ママも昔、同じ話をされたわ。
おばあちゃんは田舎で生まれ育ったから、
雨の日に外で遊ぶと川に流されて危ないよっていうことを、
そういう風に聞かされたんじゃないかな?」
母の目は遠い昔の故郷を見ていた。
「じゃあ、全部の雨の日があぶないんだ!」
「そうよ。千尋も雨の日はお外に出ないで、お家で遊びましょうね。」
家の近くに川なんて無いが、私は母の言いつけ通り雨の日は家で過ごすようになった。
それでもあの時の祖母の様子が忘れられず、お守りは肌身離さず身に着けていた。
それから数年後に祖母が亡くなった。
その日も雨が降っていた。
その時も祖母の話を思い出して、ポケットのお守りを強く握った。
その日は父に祖母から聞いた話をしてみた。
「あっち側ねぇ…。
昔は雨を降らせるために人間を生贄にする地域もあったようだ。
そういった地域では雨は神の恵みであると同時に、死者の涙とする見方があったそうだ。
そういったものが形を変えて、雨の日はあっち側に繋がるという風に伝わったのかもな。」
その時の私は父の言っていることはほとんど理解できなかった。
ただ、「死者の涙」という言葉が暗闇に引き摺り込まれるような気持ちになった。
「だから雨の日は気持ちがどんよりするの?」
「それは低気圧のせいとか言われているな。
でも、昔は雨の日に歓喜して、晴れの日にどんよりした気持ちになっていたのかもな。
千尋は雨の日にどんよりした気持ちになる時代に生まれてよかったな。」
























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