まだ俺(Yくん)が小学5年生だった頃の話。俺はその日、なぜだかめっちゃ早く目が覚めた。4時とかだったと思う。1人だけのキッチンでジュースを飲んだり、部屋で布団に籠ってスマホを見たりと、楽しい早朝ライフをすごしていた。
そこから1時間くらい経った頃だろうか。急に、足音もなく、部屋の外から呼びかけるような声が聞こえた。
「Yちゃん、Yちゃん、朝ですよ
今日の朝ご飯はカレー、カレーですよ」
キッチンに、カレーなんてなかった。誰かが料理している音も、起きてくる音もなかった。ただひたすら静かな家の中、俺はスマホを弄っていたのだから。そうしているとまた、声が聞こえた。
「Yちゃん、Yちゃん、早く起きてきなさい
カレーが、もうでていますよ
いい匂いがするでしょう?」
しなかった。したのは干された布団の太陽の匂いだけ。声の主も分からなかった。お母さんに寄せている、というのは分かるが、明らかに歳をとりすぎているし、お母さんはもう少しハキハキしゃべる。部屋を隔てた外にいるのは間違いなく、人ではないものだ。
そうしていると、部屋のドアが開いた。
そこに立っていたのはお母さんだった。だが、暗い部屋の中でもわかるほど肌が真っ白だ。
「Yちゃん、Yちゃん、大丈夫ですか?
私が、連れていきますね
私が、連れていきますね」
私が連れていきますね、と言われた瞬間、体は金縛りのように動かなくなり、声も出せなくなった。女は無表情で俺に近づき、布団ごと俺を持ち上げてお姫様抱っこした。
女は俺をお姫様抱っこして、どこかへ運ぼうとしていた。間違いなく食卓ではなかった。抵抗しようにも、体が動かず、声も出ない。
玄関まで来た時、家のインターホンが鳴らされた。
その瞬間、女は俺を捨てるように置き、ドタドタとトイレへ逃げ込んだ。そのままトイレが流れる音が聞こえると、一切の物音は聞こえなくなった。
インターホンを押したのは宅配便の人だった。ある程度小さい町で顔見知りだったため、親を起こしてもらい、事情を話した。
ここからはなにも聞かされていないので知らないが、何故か数ヶ月はトイレのドアの前に盛り塩と酒が置かれていた。そして今でもたまに、トイレのドアの隙間から、「おかあさん」がこちらを覗き込んでいるのを目撃するのだ。

























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