今から50年ほど前、A男さんはヨーロッパの某国で、事業を起こして大成功をした。
その国の白人女性と結婚をして、郊外に大きな庭と立派な家を建てた。
夫婦そろって動物好きで牧場を作ろうとしたが、色々と難しそうなので、大きな庭に動物を放ち、それを“ミニ牧場”と呼んで楽しむことにした。
ポニーにヤギに羊にアヒル、その他色々……ミニ牧場は賑やかだった。
特に収穫もしなかったので、家畜というよりもペットといえるだろう。
A男さんは真面目な性格で、仕事が終わったら真っ直ぐ家に帰る人だった。
帰宅すると動物たちが嬉しそうに出迎えてくれて、それを見るのが楽しみだったという。
近所の人たちとも仲良くして、誰でも動物と遊べるように牧場を解放したり、犬を飼ってる人の為に敷地内にドッグランも作ってあげた。
A男さんも保護犬を何匹か引き取った。
その中にパブロという、大型で雑種のオス犬がいた。
パブロはとても有能で、牧場の動物だけでなく、ドッグランに来る犬たち全てを統率した。
問題を起こすヤンチャな犬も、パブロに会わせると躾をして貰えると評判になり、頼りにされた。
ミニ牧場の動物たちは種を超えて仲が良く、動物同士の交流は、見るものを微笑ましくさせてくれた。
動物たちのリーダーとなったパブロだが、A男さん夫妻には大変甘ったれで、1番懐いたという。
夫婦は子供がいなかったこともあり、パブロを息子のように可愛がった。
※
牧場を作って3年ほど経った頃、何故か動物たちがバタバタと死んでいった。
原因は分からない。
昨日まで元気だったのに、翌日になったら死んでいるという事が続いて、その頃は朝起きるのが怖かったという。
異変はミニ牧場の動物だけで、近所の人たちのペットは無事だった。
色々と対策を練るも虚しく、最後にはパブロだけが残った。
一匹だけになったパブロは寂しいのか、夫婦から離れなくなった。
夫妻は、せめてパブロだけは死なせないでと、毎日神に祈ったという。
しかしその甲斐もなく、パブロも間も無く死んでしまった。
夢だった牧場を、小さいけれど作って楽しかったのに、何故こんなことになったのかと、2人は悲嘆にくれた。
夫妻は悲しい思い出になった家を売り、別の土地に引っ越した。
もう二度と牧場は作らなく、ペットを飼うこともなかった。
※
引っ越しから暫くして、奥さんが所用でミニ牧場のあった地域に行った時、かつての隣人のお爺さんに話しかけられた。
「あんたたち、引っ越して良かったよ」
何故かそう言われた。
仲良くしてたのに、どうしてそんな事を言うのかと、奥さんは質問をした。
すると、
「旦那さん、日本人でしょ。一部の人たちがね、東洋人がこの国で大きな顔をしてるって言って
良く思ってなかったんだよ」
と言われたそうだ。
忠実なパブロ
可哀想に、人種差別するな。動物達と天国で平和に暮らしてると良いですね