パンドラ(後日談)
投稿者:綿貫 一 (31)
さて前回、俺が長年胸のうちに秘めてきた罪の記憶を暴露したが、時を同じくして当時のクラスの同窓会の案内が届いた。
引っ越してから、俺はなるべくあの町のことには触れずに過ごしてきた。
それでも、いつかあのレンタルボックスから女装オヤジの死体が発見されるのではないか、俺がその犯人だとバレるのではないかという恐怖は、常に意識の片隅に巣食っていた。
そうして恐れ、遠ざけている間は何も起こらずに、記憶の箱を開ける決心をした途端に、過去の方から招待状を送ってくるとは。
何か目に見えない大きな存在の、悪意のようなものを感じざるを得なかった。
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同窓会当日。
十数年ぶりに再会した旧友たちは、近況の報告に昔話にと、たいそう盛り上がっていたが、俺はその中にAの姿を見つけることができなかった。
聞けば、Aの家も中学に上がる前に遠方に引っ越したそうで、今回の集まりも参加を辞退したとのことだ。
奴は、過去と決別したいのだろう。
忌まわしい過去と。
「……そういえば、アライベーカリーってパン屋、どうなった?」
俺は当時仲のよかった友人に、何気ない感じを装って
尋ねた。
「アライベーカリー……?
ああ、あったあった、そんな店。すっかり忘れてたぜ。
ちょうど、お前が引っ越したくらいに急に店締めてさ。なんか、店のオヤジが蒸発したらしいって聞いたなぁ」
「蒸発……?」
「そう。オフクロがそう言ってたのを聞いた覚えがあるよ。
で、家族も店畳んで引っ越して、今じゃそこ、コンビニになってるぜ?」
興味なさげに話す友人を前に、俺の心は急激に弛緩してきていた。
オヤジは蒸発。
「そういうこと」になっているのか。
俺の恐れは杞憂に過ぎなかったということか。
実際はどうなのだろう。
あのまま、閉じ込められたまま、今まで見つかっていないのだろうか?
それとも、自力で脱出したはいいが、誰にも見られたくない秘密を何者かに覗かれたために、そのまま姿を消したのだろうか?
いずれにしろ、「事件性はなかった」と、周囲は認識しているようだ。
安堵のため息が漏れる。
だが、次の瞬間には、もうひとりの俺が俺自身に警句を発していた。
パン屋のオヤジが変態殺人鬼扱いされてて
女装趣味と被疑者死亡のコンボで詳細が伏せられてるとか…(´・д・`)?