患者と先生
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
私はある病院で心理カウンセラーとして働いている。
家族とは一緒に家に住んでいるのだが、仕事が忙しくて、最近はほとんど帰らずに住み込みのように勤務している。
この病院は24時間365日稼働していて、私は毎日9時から18時までの勤務だが、それ以外の時間は突然の相談やら対応やらがあって自由に帰ることができないのだ。
しかし、私を必要としている利用者さんがいる事で幸せを感じている事は事実だ。
他の職員は彼らを「患者さん」、医者の事を「先生」と呼んでいるが、何だか冷たい感じがするので、私はそれぞれ「利用者さん」「ドクター」と呼んでいる。
利用者さんにはいろいろな方がいる。例えば
「他の人には見えない物が見える」
「常に幻聴が聞こえて頭がおかしくなりそうだ」
といったものから始まり
「宇宙警察に監視されていて家から一歩も出られない」
というものまである。そんな時はこう答える。
「人の視覚には差があって、人には見えないと言われている紫外線や赤外線が、ある条件が重なる事によって、何かの人影とかに見える事がありますよ」
「年を取ると聞こえなくなるモスキート音というものがあるんですが、実際にはその周波数よりもさらに高い音が聴こえる場合があって、それを脳が誤ってあたかも人の会話のように処理してしまうんです」
「宇宙警察なんて存在しません。あなたは犯罪なんて犯してないし、そもそもあなたを監視する意味がありません」
といった具合だ。
この部屋もそうだが、ドアには小さな窓があり、そこから職員や警備員が覗き込めるようになっていて、利用者さんが何か不穏な行動が無いか見守ることができるようになっている。
聞いた話では、医者や職員が利用者さんと不適切な行動や、虐待等が無いか監視するためのものらしい。
私がその話を聞いた時は、監視カメラも付いているしそんなことがあったらすぐに対応できるだろうと、その窓を塞ぐように院長に直訴したが、聞き入れられずに暴れたとされ、大変な事になった事もある。
そう言えば最近になって気が付いたのだが、ちょっと気になることがある。
利用者さんは同じ人が繰り返し来ることもあれば、代わる代わる違う場合もある。
そこで、同じ利用者さんが言葉を変えて同じ内容の相談とか質問をしてくる事に気が付いたのだ。
もちろん、同じ人が同じ相談をしてくれば同じ返事をするわけだが、それはまるで私が何か間違いを犯すとか、同じ質問に違う答えをしないか試しているようにも思えた。
もしかしたら、ドアの小窓は、私が何か間違ったらすぐにドアの向こうから警備員や他の職員が入ってきて、私をどうにかしようという作戦なのかもしれない。
こういう事は、疑えば疑う程疑心暗鬼になり、私の方がカウンセリングを受けなければならない程で、実際に過去にはそんな事があったから仕方がない。
いつもは私のこの部屋には、利用者さんが一人ずつ入ってくる。
しかしこの日は珍しく二人の男が入室してきた。
二人は兄弟ということで、兄が弟の心配をしてこの病院にやってきたという。
資料を確認すると、兄は有名企業に勤める会社員で、弟は大学生のようだ。
兄の方はスーツをビシッと着こなしていて、もしこれが白衣なら医者だと言われても疑わないだろう。
弟はそれに比べて、古びたよれよれの服装で無精髭さえ剃っていない。
面白かった。続編、読みたいです。
「続編」ですか…。
私は自宅でコメント欄を読んでいたが、その続編のアイデアを考えあぐねていた。
私は気持ちを落ち着かせるためにトイレへと向かった。
ところが、後ろから誰かが後を付けてくることに気が付いた。
おかしい。
私は一人暮らしのはずだ。
作者より
気配とか、感じる方なんですか?怖いですね。
>気配とか、感じる方なんですか?怖いですね。
ただの「プチ続編」のつもりでした。特にそのような気配を感じる事はありません。
多分。
作者より
読みやすい。