少し長くなるけど聞いて欲しい。
俺の先輩にユウジ君ていう人がいた。近所で1つ上だったんだけど、子供の頃からよく遊んでた。お互い一人っ子だったから俺はユウジ君を兄貴のように、ユウジ君は俺を弟のように思っていた。腐れ縁で小中高と一緒でさ、部活までずーっと一緒にサッカーをやってた。
ユウジ君は裏表がない性格で、男女から凄く人気があった。不良連中でさえ、ユウジ君には一目置いていたようで、悪く言うヤツはいなかったくらい。
そんなんだから小中高とそりゃモテたんだよユウジ君。芸能人でいうと生田斗真っぽい顔してるしさ、それで人格者でサッカーも上手ければそりゃモテますよ。めちゃめちゃ羨ましかったけどね。でも、勉強はあまり得意じゃなかったっけな(笑)
ユウジ君、小中高とサッカー一筋だったけど、高校になって1つ年上でサッカー部のマネージャーだったマリさんにベタ惚れしちゃってね。長くなるから端折るけど、猛アタックの末付き合うことになったっけ。俺も内心マリさんのこと好きだったけど、ユウジ君なら仕方ないってすっぱり諦められた。
その後、俺とユウジ君は別々の大学に進んで、マリさんは短大から一足先に社会人になっても、なんだかんだ俺はユウジ君とずっと仲良くさせてもらっていたから、その流れでマリさんとも付き合いが続いていた。
ユウジ君は地元の中堅建設会社の営業として、俺も地元の役場にそれぞれ就職した。それから数年していよいよユウジ君とマリさんが結婚することになって、その司会を俺に頼んできたんだ。もちろん二人を祝福するのに断る理由もなかったから二つ返事で了承した。二人とも本当に嬉しそうに喜んでくれてさ、俺もそんな二人を見て本当に幸せな気分になれた。
そう、あのときまでは
ユウジ君とマリさんの結婚式まで2か月を切った10月の終わりに事件は起きる。
マリさんがユウジ君の前から姿を消した。いや、消したという言い方は正確じゃない。ユウジ君の話では目の前で誘拐された。ここから先の話はユウジ君本人から聞いたものになる。
その日、ユウジ君はマリさんと隣県の結婚式場で打ち合わせを行っていた。打ち合わせ時間は15時と開始時間が少し遅かったにも関わらず、なんだかんだ長引いてしまったそうだ。終わった頃には18時を回っていた。国道を通ると地元に戻るまで1時間半近くかかるし、夕食がまだ済んでいないこと、翌日は月曜日で朝から仕事ということを考えると1分でも早く地元に戻りたかった。そのため、車通りが少ない県道を通ることにしたそうだ。
どちらも山道であるが、国道は大きく迂回するようなルートである一方、県道はまっすぐ地元に向かう。県道は外灯も少なく狭い道が続くのだがここを通ると1時間を切るため、地元の人間であれば利用する人間も少なくない。ユウジ君も慣れた道ということで県道を選択したそうだ。
県道を走るも対向車も無ければ前方にも後方にも車はなく、暗い山道がただひたすらに続く。マリさんと一緒だったからそこまで怖さは感じなかったそうだが、一人だったらさすがに恐怖を感じる程だったそうだ。しばらく走っていると前方にテールランプが見えた。その灯りを見て二人とも少し安堵したという。前方の車は異様に遅く、あっという間に追いついてしまった。
時速20km/h程度か、トロトロと前を走る型の古いベンツにユウジ君はイライラしていた。追い抜こうにも見通しの悪いカーブが続くため、万が一の対向車を考えると容易に追い抜くこともできない。するとそれを察してか、前方のベンツが左に車を寄せてハザードを点滅させて停車した。追い抜けということだろう、ユウジ君は慎重にその車を追い抜いた。追い抜き様に並んだベンツの運転席を見ると、老夫婦がこちらを見ていた。目の合った老夫に対し、軽く会釈をしてユウジはベンツを追い抜いた。
「これで先を急げる」と思ったのも束の間、追い抜いたベンツがユウジ君の運転する車の左後方にぶつかってきた。ドン!と鈍い衝撃が車内を襲った。すぐに車を道端に停めるとベンツもすぐ後方に停車した。幸い相手も発進間際だったため、さほど強い衝撃でなかったことから、ユウジ君もマリさんも大事には至らなかった。
ユウジ君が運転席から降りると同時に、後方のベンツからも老夫婦が降りてきた。
「申し訳ない。アクセルとブレーキを踏み間違えてしまって」
申し訳なさそうに老夫婦は揃って頭を下げてきた。これだから高齢者は・・・と言いたくなるのをマリさんの手前、ユウジ君はぐっと堪えた。
お互いの車は軽く凹んだ程度だったが、とりあえず警察と保険会社に電話を入れようとユウジ君は携帯を取り出そうとした。それを遮るかのように老夫が言葉を発した。
「警察への連絡は私がしましょう。元はと言えば私が操作を誤ったことによる事故です。それと保険会社への連絡も私がします。走行中の事故だと10対0になりづらいのはご存じですか?下手に保険を使うと保険料が高くなりますし、私が責任を持って全額修理代をお支払いします。もし自走できないようであれば、私の保険を使ってレッカーをお呼び致します」
随分と事故に詳しいんだな、と訝しんだものの老夫の毅然とした態度に対応を任せた。
老婦が近寄ってきてユウジ君とマリさんの具合を気遣いながら、夫が申し訳ないと再度深々と頭を下げてきた。夫には運転を止めるようにいつも言ってるんですけど・・・といった話を聞いている間、老夫は警察やら保険会社やらに忙しく電話をしていた。一通り電話を終えたのか、15分程してようやく老夫が戻ってきた。
「警察やら保険会社への連絡は終わりました。それと申し遅れました、私は林と申します」
そう言って免許証を見せてきた。昭和18年4月15日生まれ、林郁夫と明記されていたのをユウジ君は記憶していた。住所は俺たちと同じ県の別の市だったそうだ。
「ごめんなさいね、本当に。80近くにもなるのに夫は運転を止めないんです。でもこういう事故をいつか起こすんじゃないかと私も気が気でなかったんです・・・。これで免許返納考えてくれると私も安心なんですけど」
老婦はそんなようなニュアンスの話をすると老夫はバツの悪そうな顔をしていたそうだ。警察を待つ間、ユウジ君とマリさんも結婚式の打ち合わせの帰りといった話をした。老夫婦はその話を聞きながら、そんな日にこんな事故に巻き込んでしまってと何度も申し訳ないと謝罪を繰り返してきた。
それから20分程経った頃、赤色灯がこちらに向かってくるのが見えた。冷え込んだ山道で待ち続けていたユウジ君にとっては「ようやく来たか」という思いだった。若い警官と中年の警官2人がパトカーから降りて近づいてきた。
「どなたが運転されていましたか?」
若い警官がユウジ君たちに尋ねてきた。ユウジ君と老夫が名乗り出ると、現場検証を行うことになったため、ユウジ君はマリさんに軽く手を振ってその場を離れた。現場検証では老夫は嘘をつくわけでもなく、淡々と自分が操作を誤りユウジ君の車に後ろから追突してしまったことを話していた。15分程度の現場検証を終えて車に戻るとマリさんの姿がない。辺りを見回すとパトカーの後部座席にマリさんの姿が見えた。その横には中年の警官が座っている。
人怖。
組織?
おつかれさまです
今日Youtube見てたらこの話を朗読してる人が何人もいた。
大町ルートって調べたら北朝鮮に拉致されるとこで有名なとこじゃん
↑拉致されたって事?
↑そうやで。実際に拉致されて事件にもなってた
圏外なのに倒れたユウジくんを発見した人は通報と救急呼べたの?
電波が入るところまで移動したんじゃないの?
作者です。
久々の受賞、それも1&2位フィニッシュを果たすことができました。
怖いに投票してくれた皆様ありがとうございました。
仕事が忙しい時期になってきたので、なかなか作品にかける時間がありませんが、暇を見ては業務の合間でチマチマと書き上げています。これからもよろしくお願いします。
こわー
久しぶりにゾッとしました。
大賞おめでとうございます。
え?これフィクション?
悪くない
気持ちはわかるけど作者コメは萎えるからやめてほしい
良い話なだけに、作者コメ残念すぎる。
いいね
マジこえーよ、バーロー(笑)
心霊話より怖い
めちゃくちゃ精緻で考え込まれた作品だなあとおもいました。素晴らしい話をありがとうございます🙏
最後の一分でゾワッとしたわ