翁の面
投稿者:N (13)
大学一年の夏休み、俺は友達のA、B、Cと四人で近場の廃屋に肝試しに行った。
そこは廃屋と言っても年季の入った納屋みたいな建物で、山の麓から少し入り組んだ先に放置されている建物だ。
おまけに土地の所有者も不明で、地元の人もそこが私有地の山だなんて知らないような場所だった。
何十年も手入れがされていないせいで、ある意味魔境。
見たことの無い外来種の植物も合わさり自然の恵みで育ちに育ちまくったためか、ジャングルの中に小汚い納屋がひっそりと佇んでいる。
そんな誰も入り浸らないような僻地を見つけて来たのはAで、Aは二つ上の兄貴からこの納屋にまつわる噂を聞いたそうだ。
Aの兄貴は心霊系ユーチューバーとか大好きで、たまにこういった心霊スポットや廃墟を仲間とめぐる趣味活動をしているらしく、その納屋にも行った事があるという。
その納屋では、数年前にホームレスが住み着いていたそうなんだが、納屋の中で心臓発作で亡くなっているのを心霊スポットめぐりをしていた当時の大学生が見つけたらしい。
そんなことがあった納屋だからちょっとした曰く付きの場所として知る人ぞ知る名スポットとなっている。
実際にそこで心霊現象があるかどうかは知らないが、その話題をAが持ってきたのだ。
俺達はFランの暇を持て余した大学生。
Aからその納屋に行く提案をされたら、当然二つ返事で了承した。
そして、とある晩に俺達四人は軽装でその納屋があるという麓にやってきた。
「なんかワクワクするわ」
「ここ熊とかいねえよな」
「いるわけねえだろ」
「猪とかならいそうだな」
ライトを頼りに麓から山中に侵入していくと、手入れのされていないほとんど生い茂った植物に囲まれた獣道を進んでいく。
ちょっと風が吹いているせいか葉っぱが揺れてカサカサと周囲から音が鳴る。
おかげで俺達の中でも一番の怖がりなBが「なんかいる」てな具合で何度も何もない方にライトを向けては俺の肩を掴むもんだから、なかなか進めなかった。
納屋の場所は麓から歩いて五分もしないところにあるとは聞いていたが、俺達の足で三分もしないくらいには古びた建物を視界にとらえた。
蔓とか蔦とかよく分かんないものに覆われた不気味な外観だったが、それ以上に腰の位置まで成長した雑草のバリケードが侵入を拒んでいるようで厄介だった。
というより、C以外は虫が苦手だったから、明らかに虫が付いていそうな草を掻き分ける気力もなく、早々にリタイア寸前だった。
でも、Cが先頭に立って草を払い、踏みつけ、納屋の入口までの進路を確保してくれたから、残る三人で「さっすがー」「やっぱCだわ」「かっこいいわー」とか言いながら王様気分で楽になった足場を悠々と歩いて進んだ。
Cは「あとでなんか奢れ」と言ってたけどスルーした。
納屋の扉には閂っていうの?みすぼらしい今にも折れそうな木の棒が横に引っ掛けられていたが、それをひょいと持ち上げれば他に施錠も無く、すぐにドアを開くことができた。
当然、中は真っ暗で充満した埃が風と一緒に外に排出された勢いで俺達は咽た。
中を照らすと、空間のほとんどをゴミみたいな小物が占めていて、一部には毛布などの生活用品が乱雑に転がっている。
噂のホームレスが住んでた形跡だろうか。
他には漫画本とか酒の空き缶、コンビニで買えそうなお菓子なんかのゴミ袋が散乱している状態。
中にはエロ本なんかもあった。
きっと俺達以外にも誰かがここに訪れた際に捨てて帰ったんだろうと思った。
翁の面を持ち帰りよう仕向けかもしれない。
翁の面っていう時点でもう怖い