翁の面
投稿者:N (13)
「なんか思ったより何もないな」
「そりゃただの納屋だしな」
BとCが中を物色しながら駄弁ってる。
俺はそんな会話に耳を傾けながら、一本の柱に包丁が突き立てられているのを見つけた。
「これ見てみ。やべー」
「うわ、こわっ」
俺が指を差すとBが苦笑した。
心霊的な怖さは無かったが、この光景は別の意味で怖い。
もしかしたら頭のヤバい奴が今でも住んでるんじゃないかと疑い始めた。
まあ、この生活感の無さから見ても、肝試しに来るような奴は居てもさすがに住居にしている奴はいないと思うが。
そんな折、やけに物静かだったAが俺の肩を叩いてきたから振り返ると、
「うわあっ!?」
俺は悲鳴を上げた。
Aは変なお面を見つけて被り、俺を脅した。
翁の面だろうか。
白い眉やほどほどに伸びた顎鬚が特徴的だったが、垂れ下がった目元が特に不気味だった。
「びびったろ」
「おまえ、マジそれはビビるわボケ」
面を外してニシシと笑うAに、俺は軽く苛立った。
それにしても薄汚い面をよく顔につけられるものだと感心したが、Aは俺にやった悪戯をBやCにもして肩を殴られてた。
それからしばらく何か面白そうなものはないか物色していたが、特に話題になりそうなものは無かった。
まあ、当然と言えば当然なんだが、心霊現象なんかは一切無い。
まるで家探しの真似事だったが、バカな大学生の夏の思い出としては充分だろう。
「そろそろ帰るか」
こうして、俺達の初めての肝試しはわずか十五分程度で終わった。
で、ここからが俺の…Aの身に降りかかった恐怖体験。
恐怖体験の括りなのか分からないが、Aはその納屋で翁の面を持ち帰ったせいでおかしくなった。
その変化は翌日から如実に現れた。
その変化とは、俺達と話している途中で急に真顔になったかと思えば、目尻を垂らすんだ。
今までも見たこともないAの柔和な表情は不気味の一言だった。
最初は「お前、急にふざけんなよ、吹いたじゃねえか」とか言いながら吹き零したジュースを拭って笑ってたんだが、どうにもAはその変な表情から戻れば何も覚えていないように「お?おおう」って言って誤魔化していた。
翁の面を持ち帰りよう仕向けかもしれない。
翁の面っていう時点でもう怖い