Private: 赤いセダン
投稿者:ねこじろう (147)
これは俺が大学の同級生Hと、休みの日に釣りに行った帰りに遭遇した不思議な体験だ。
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昼過ぎから県境の山あいにあるダムに、俺の軽自動車で出掛けた。
12月も半ばを過ぎた頃だったからダム周辺は結構寒かったが空は澄みきっていて、旨い空気と穏やかな景色を眺めながら日の沈む頃まで心行くまでバス釣りを楽しんだ
釣果は十分に満足なものだった。
「そろそろ、撤退するか?」
Hの一声で俺たちは釣り道具をまとめると駐車場まで歩き、車に乗った。
太陽は既に西の彼方の山の端にその姿を隠そうとしていて、だだっ広い駐車場はかなり薄暗くなってきている。
俺はヘッドライトを灯し駐車場を突っ切ると、山道を走りだした。
昨日深夜のバイトであまり寝ていないというHは隣で、早々と寝息をたてている。
話し相手を失った俺はFMラジオでも聴きながら山道をひたすら走っていた。
左手は岩肌が迫り、右手はガードレールという二車線の道で、すれ違う車はほとんどなかった。
ガードレール越しの遥か彼方に、煌めく街の夜景が微かに瞬いている。
あそこまで行くには、あと1時間はかかるだろう。
俺は背筋を伸ばした。
何度めのカーブを過ぎた頃だろうか、いつの間にか一台の車が真後ろについている。
何気にバックミラーを見た途端、目が眩んだ。
どうやら後ろの車、ハイビームにしているようだ。
そして煽るかのように車間距離を近付けたり、離したりしている。
面倒くさかったから車を減速させ、左に寄せた。
すると後ろの車は右車線に侵入して、俺の車の真横を通り過ぎだした。
見るとそれは、昔のアメリカ映画に出てくような赤の角ばったセダンだ。
─すげえ、今時こんな車乗ってる人間がいるのかよ?
変に感心しながら、ふと後部座席を見ると、数人の子供が身を寄せ合うようにして、ウインドウからこちらをじっと見ている。
二人や三人とかではなく、四、五人はいると思う。
ウインドウいっぱいに並ぶ顔は皆一様に青白く何だか悲しげだ。
子供たちは通り過ぎる間ずっと何かを必死に訴えるような目で、俺の方を見ていた。
そのセダンは俺の車の前方に出るとタイヤの軋む音をさせながら、すぐ先のカーブを左折して、姿が見えなくなった。
俺も左に大きくハンドルを切る。
この先はひたすら下りの直線道だ
カーブを左折が気になって