暴力性を刺激する動画
投稿者:件の首 (54)
昨年大学院に上がった私は、A助教授の研究プロジェクトに参加する事になった。
A助教授は、視覚的刺激による行動変容の研究を行っていた。一昔前、光刺激で発作が起きた放送事故があったが、あの方向性の話だ。
刺激のパターン、長さ、強さ、繰り返しによる蓄積など様々な要素に分け、マウスによる実験が繰り返された。
結果として、ある一定の組み合わせの場合、攻撃性が増すという優位なデータが集まりつつあった。
だが、マウスは生理機能はともかくとして、脳機能については人間に当てはめるのは少々無理があり、やはり類人猿を用いた実験が望ましい。
こういう時、プレ実験としてゼミ生や同じ学部に声をかけて被験者融通し合うことは、案外多い。
だが、実験の結果、有意な結果は得られなかった。
A助教授は刺激動画を何種類か作り直したが、結果は同じだった。
研究が進まずA教授は苛立つようになり、そして結果を求め、一番効果がある筈の視覚刺激動画を、独断で動画サイトに掲載した。
通常なら削除されるような意味不明な内容だったが、研究費を横領し広告枠で掲載したのだ。
それが発覚し、A助教授は処分された。
処分を伝える緊急会議の場で、近くの教授に大怪我を負わせたらしい。
政府統計を確認する限り、今年の凶悪犯罪が急増している。
実験に使ったマウスは、実験が中止になってしばらくして共食いと自傷で全滅した。
効果が発生するには、仮説で想定したよりも遙かに多い繰り返しと、一定のそれに触れない空白期間が必要と考えれば、説明がつく。
A教授は当然、自分自身でも動画を観て編集し、処分前、謹慎させられていた。
緊急会議の場は、暴力性が表れる最初のタイミングだったろう。
同じように研究に参加して、プレ実験の被験者役もやった身としては、感情の動きがよく分かる。
だから、私の精神鑑定については、同種の研究を行っていたB教授にも参加して貰いたい。
――容疑者Cの取調記録より。
XX大学内で発生した、集団殺傷事件の容疑者の1名。
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