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不思議体験

もりのくまおさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

初めて見たもの
短編 2022/08/19 05:16 3,013view

唱和40年代と言えば、高度経済成長期が始まり、日本が本格的に戦後の混沌の時代から
脱却しようとしたころであり、かつまだまだ社会的にはあらゆるものが緩く、許される
時代であると思う。今のようにギスギスしたルールや、重箱の隅をつつくような赤の
他人からの批判やクレームも少ない時代だったのではないか。日本全体が「ジャパン・
アズ・ナンバーワン」を目指して本当にがんばった時代だった。

当時、私の父は紆余曲折を経て、ダンプカーのドライバーをして私たちを養って
くれていた。家族全員で夏休みに一緒に旅に出るのが父にとっては数少ない楽しみ
だったと感じている。その旅行の仕方が凄い。ダンプカーで出発するのだ。
そしてダンプカーの荷台にテントを張って宿泊する。昼間暑いと、運転中に私と姉は
荷台に乗って風に吹かれていた。誰もそれを見ても咎めることもなかったし、
警察に捕まったことも無かった。今思えば本当に緩く、おおらかな時代だった。

私が小学4年生の夏、愛知県のとある山を我々は目指した。途中温泉に寄ったり、
蕎麦を食べたりして、山を目指す。目的地には特に何もないけれど、その道程は
楽しかったことを覚えている。

夕方になり、さてどこに車を止めてテントを張ろうかということになり、両親は
いつものようにいがみ合いながら場所を探した。なんせ車が10tのダンプカーで
ある。それなりの面積が必要だ。今のように大きな駐車場があるドライブインも
ない。

そして見つけたのがとあるトンネルの入り口付近だった。早速荷台にテントを張り、
落ち着いたころには周りは真っ暗になっていた。荷台から少し離れたトンネルの
入り口はまさに漆黒の世界。今思えば照明はなかったのか、と思うが、その辺は
ちゃんとした記憶がない。ただただ、トンネルはまっくらだったと思う。

私たち家族の旅のルール。早寝早起き。なぜって、いつまでも駐車場以外の
スペースにダンプカー留めてたら、トラブルのもとだから。貧乏旅の知恵という
ところなのかな。

ということで、私たちは早く寝ることになる。テントの中のライトを消すと、
すべてが闇に閉ざされる。しかし不思議なもので、目が慣れてくると何となく
周囲が見えてくるものだ。

夜中だと思う。私は尿意を覚えて目が覚めた。至極恥ずかしい話だが、
私は幼稚園を卒業するまで「おねしょ」をしていた。そしてよく母に文句を
言われてきた。だからそのトラウマで尿意に敏感になっていたのだ。
しかし、テントを出て一人でおしっこをしにダンプカーを降りるのには相当な
抵抗があった。どうしようどうしようと困れば困るほど、尿意は増してくる。
だめだこのままでは膀胱が「ポン」という音とともに破裂する。その後のテント内の
地獄絵図を想像し、私は意を決した。外に出て用を足そう。

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