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心霊

もりのくまおさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

今、人を轢きましたか?
短編 2022/09/02 00:34 2,376view
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 子供のころから、よく不思議な体験をしてきた。その一つが、「不意に誰かに名前を
呼ばれる」というものだ。一人で部屋でぼーっとしている時。地下鉄に乗っている時。
時間や時を選ばず、突然誰かに名前を呼ばれる。

 子供のころは、時々、亡くなった祖父や、祖母に名前を呼ばれた。「OO!」と
しっかりした口調で名前を呼ばれるのだ。その度にビクッとしてあたりを見渡す。
そして成人してからは、知らない声で名前を呼ばれることになった。ある時は女性の声。
ある時は幼いの男の子の声。呼ばれるたび毎回私はビクッとしてあたりを見まわすことを
繰り返してした。

 大学生になると、名前を呼ばれることはだんだんと少なくなっていた。

しかし。

 三年生のある夜。私は当時付き合っていた彼女と昼間にデートし、夜の10時位に
彼女と別れて、自宅まで歩いて帰っていた。

 その道はなだらかな下り坂で、街灯も少なく薄ぼんやりした一本道。某短期大学の
裏にある何のことはない、普通の住宅街を通る道。私は彼女と結婚することに
なるのかな?でもあの荒い気性の女性とうまくやっていけるかな?などと考えながら
歩いていた。足元は住宅地のわりに暗く、歩きにくい。

 小さな交差点に差し掛かった。赤なので止まって待っていると、坂の上から車が
くるのが見えた。車は青信号で当然速度を落とすことも無く、交差点に進入してくる。

その車が交差点を越えようとする瞬間、キキ―ッという激しい音とともに止まった。
突然急ブレーキを踏んで止まったのだ。

 私は立ち止まったまま、その車を見ていた。数秒も経たないうちに、男が運転席から
出てきた。もの凄く動揺してるのが10メートルくらい離れていても見て取れる。

 男は周りをきょろきょろしながら、さかんに車の前、車の下を見ている。何度も
何度も。そしてこちらを見ると、私の存在に気が付いたようだ。男はこちらに走って
近づいてきた。若い青年だった。

 その男が、私に向かって、明らかに恐怖で震えた声で話しかけてきた。

「いま・・いま人を轢きませんでしたか?誰か轢いてしまったんですか?」と。

私は、「そのようですね。でも轢いたときの音は聴いてないし、その人もどこにも
いないでしょ?だから人間は轢いてないと思いますよ。」と答えた。

その男は一瞬、何とも言えない複雑な表情を浮かべ、しばらく沈黙し、そして
「そうですか・・・」と一言残し、車に戻ってゆく。そしてもう一度車の前と、
下を確かめて、車に乗って去っていった。

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