ボットン便所の怪
投稿者:とくのしん (65)
みなさんはボットン便所なるものを知っているだろうか?
俺がまだ幼少の頃はそれなりに存在していたが、水洗トイレが一般的になった現在、若い方は見たことすらないかもしれない。正式名称は”汲み取り式便所”というが、幼少の頃はこれがとにかく恐ろしく感じた。
和式スタイルの便器に大きな穴が開いており(水洗式でいう水が流れていく穴)、ここに用を足すのだが、幼少の頃はその穴に自分が落ちてしまうのではないか?とか、穴から手が出てきそう、という恐怖と闘いながらトイレに入ったものだ(笑)
母方の実家がボットン便所で遊びにいくのは楽しみだったものの、唯一このトイレだけが苦手だった。穴の恐怖はもちろん、トイレの中はアンモニア臭が漂うため、これもまた苦手な要因の一つだった。
さて、前置きはこれくらいにして、この話の体験談の主は俺の父方の叔母。嫁いだ先はT県の農家で、その近隣で起こった話である。
叔母には娘が二人いる。上の娘が15歳、下の娘が12歳のときのことだ。近隣でトイレ覗きが頻繁に起こった。上の娘(里美)もその被害者の一人で、夜トイレで用を足していたら視線を感じたため、窓に視線を向けたところ男と目が合ったというのだ。
里美はその男に心当たりがあり、近所に住む陽一という男ではないかと疑った。陽一は里美より2つ年上の高校2年生、おとなしく目立つタイプではなかったそうだ。里美の疑い通り、犯人は陽一ではないか?という噂が近隣で広がり始めた。だが、陽一の家はその土地の有力者で下手なことはいえない。そこで被害にあった家の男衆で見回りを行うことになった。
見回りを始めて2週間程経ったある日の夜、ついに犯人が捕まった。叔母の家から4件隣で覗きが出たのだ。覗かれたのはその家の娘で、トイレに入ると外で物音がしたそうだ。娘は用を足すふりをしながらトイレで様子を伺った。すると窓から男の顔が見えたため、大声で父親を呼んだ。
父親はすぐに外に出て、大声で覗きが出たことを近隣に知らせた。その声は見回りをしていた男衆にも届き、ついに犯人を捕らえることに成功。大方の予想通り、犯人は陽一であった。まもなくして騒ぎを聞きつけた陽一の両親が駆けつけた。
被害にあった家々は揃って陽一を警察に突き出すと両親に言い放った。父親は「それだけは勘弁して欲しい。陽一の将来もあるので警察沙汰はやめてくれ」と懇願した。怒りが収まらない人々は、ここぞとばかりに両親を責めた。有力者であるが故か陽一の両親はかなり傲慢で、それはもう嫌われていたらしい。陽一の父親は金銭で事を収めたいという提案をしてきた。条件は2つ
・陽一には二度とこんなバカなことはさせないので警察沙汰にしないこと
・口止め料を払うのでこのことは絶対に他言無用にすること
陽一が初犯であることと、納得せざるを得ないような額の口止め料に、叔母も含め誰一人条件を拒む者はいなかった。
それからしばらくは平穏無事に過ぎていたが、陽一の父が被害者宅に怒鳴り込んでくるという出来事が起きた。発端は口止め料を払ったのに、例の件が広まっていることへの怒りだった。
“人の口に戸は立てられぬ”
とよく言ったものだが、その言葉通りに覗きの噂は広まっていた。そこで怒りの収まらない父親が犯人探しを始めたというわけだ。しかし、被害者住人からしてみれば陽一が元凶ということも忘れ、どこから漏れたかわからない噂を自分たちのせいにしたという。どちらの言い分もわからなくないが、とにかく醜い争いが勃発したという。
結局誰が言った言わないは明らかになることがなかったが、騒ぎが大きくなったことで当の陽一は不登校になった。陽一は県内でも有数の進学校に通っていたが、実のところ学校の勉強についていけずといった理由もあったらしい。しかし両親は噂を広めた被害者住人が全て悪いと憤慨していた。
被害者住人たちと対立が深まる中、再び覗きが起きた。住人は陽一が犯人だと決めつけ、今度こそ警察に突き出す騒ぎに発展。両親は一人息子の陽一を庇い立てしたが、住人の怒りは収まらなかった。覗きの件とは無関係な住人までもが騒ぎ立て、収拾がつかなくなる事態へ。そうこうしているうちに、陽一が行方不明になった。
住人たちは「いなくなったのは犯人だからだ」とか「両親がどこかに隠した」などと好き放題言っていた。両親は警察に捜索願いを出し、必死に陽一を探した。しかし住人の誰一人として、捜索を手伝うものはいなかったそうだ。
行方不明から3日後、捜索空しく近くの川の下流で冷たくなった陽一が見つかった。上流の橋で陽一の遺品が見つかったことや、事件性がないことから身投げしたと警察は断定。陽一の自殺は新聞にも載ったが、覗きの件は完全に伏せられており、警察にも顔が効く父親に忖度したと言われた。両親は自殺の原因は住人のせいだと決めつけていたが、遺書には両親の過度の期待が辛かったこと、とりわけ父親の教育熱心ぶりがきつく、そこに来て覗きの件で恥さらしと罵倒されたことが引き金になったと書かれていたとかなんとか・・・。
真相はわからないが陽一の死をもって、この件は幕引き・・・となるはずだった。
しかし事態は急変する。陽一の死後、再び覗き事件が勃発。最初の被害は叔母の斜め向かいの住宅で、その家の娘が男に覗かれたと夜中に騒いだ。それから近隣では覗きが多発したのだ。陽一が死んだのに犯人は別にいたのか?など憶測が飛び交い始めた。男衆は見回りを再開したものの、一向に犯人は捕まらない。
そんなある夜中、叔母の隣の川田という家でそれは起こった。隣の家から悲鳴が聞こえて里美が飛び起きた。隣の部屋で寝ている妹の公子を起こしに向かったところ、やはり悲鳴で目が覚めたようだった。
「誰か来ておくれ」
声の主は川田のお婆さんの声。その声を聞いて慌てて1階に向かい、両親を起こす。叔父と叔母が川田家に向かった。公子と里美も二人で家に留まるのは怖かったため、一緒についていった。
川田のお婆さんは早くに旦那を亡くしたため一人で住んでいた。当初、お年寄りの一人暮らしを狙った物取りの類かと叔母一家は思ったらしい。
「川田さん!どうかしたか?」
叔父が大声で呼びかける。
「ひぃ~ひぃ~」
かすかにお婆さんの声が聞こえた。玄関は鍵が締まっていたものの、只事じゃないと玄関をぶち破って中に入っていった。その物音を聞いて、近隣の住民も飛び出してきた。叔父が先頭になり、恐る恐る家の中を進んだ。暗く長い廊下の奥にうっすらと明かりが見え、そこにお婆さんが壁にもたれかかっていたのが見えた。
ゾッとするけど読み応えがあった。
無念って…自業自得では?
ボットントイレ。
昭和40年頃、兼業農家だった友人宅には、外に便所がありました。
便槽に板を渡しただけの掘っ立て小屋。
夜は、裸電球一個のみ。
不衛生に加え、安全面でも問題おおありで、昼間でも怖くて入れませんでした。
当時の時代背景を知る者として、厭な思い出が蘇る後味の悪い事件ですね。
最後の一文に座布団一枚!
うまいこと言った!
とくのしんさん、うまいなぁ。
ラストで爆笑。
落ちうますぎやろ
オチ、やられました!
このオチ、はて、笑うところであろうか?
うんんん、どうだろう
大分一家6人殺傷事件思い出した。一歩間違えばあーなってたかもと思うと自ら処してくれて良かったと言えるかも。それはそうと幽霊も最近は電話ボックス、ボットン便所等々次々棲家を奪われ肩身が狭そう。