ボットン便所の怪
投稿者:とくのしん (65)
「川田さん!無事か?」
叔父の声にお婆さんは明かりの方向に指を指し、口をパクパクしていている。お婆さんは腰を抜かしていたようだった。指さした方向に便所が見えた。
電球の明かりが不気味に揺れている。薄暗い便所の入り口から中をゆっくりと覗くが何もいない。ほっとした叔父が川田のお婆さんに一声かけた。
「川田さん、何もいないじゃないか。夢でも見たか?」
「ああああ、そこ・・・そこだよ!」
「そこ?だから何も・・・」
叔父が振り返ると同時に娘二人が悲鳴を上げた。
薄暗い便所のさらに暗い便器の穴にそれはいた。
“便器の中から人間の目と思しきものが、こちらの様子を伺っていたのだ”
4人は絶叫した。便器の暗中から目だけがぎょろぎょろと動いていた。
その悲鳴を聞いて近所の住人が飛び込んできたが、そのときにはもうその目の持ち主は便器の中にはいなかったそうだ。
「寝ぼけて見間違えたんじゃないか?」
そう訝しく思う者もいたそうだが、川田のおばあさんを含め5人がそれを目撃したこと、お婆さんの身に起きたことがそれを否定。お婆さんは恐ろしそうに起きたことを淡々と語った。
おばあさんが夜中に目が覚めて用を足しに便所に向かった。電気をつけて便器に跨り下着に手をかけたとき、ふと便器の中で何かが動く気配があったように感じた。しばし様子を伺っていると、眼球が二つ浮き上がるようにわいてきたという。それだけでなく、お婆さんの左足首を便器の中から黒い手が掴んできたというのだ。お婆さんは転げるように便所から逃げた。腰を抜かして動けなくなったところに、叔母一家がやってきたという。
その証言を裏付けるかのように、おばあさんの足首は何かに掴まれたような跡があった。糞尿塗れの手形がはっきりと残っていたそうだ。
それからも近隣の家々で不可解なことが起きたという。ある家では便器の中からうめき声が、ある家では便所に黒い人影を見たなどなど・・・。信憑性に欠けるものも多く、どこまでが本当かわからなかったと叔母は言った。
そのようなことが頻発する中、陽一の霊の仕業だという噂で持ち切りとなった。陽一の両親は一人息子の自殺に加え、そういった噂に耐えきれなかったのだろう。豪邸を売り払い、どこか別の土地に引っ越していったそうだ。
そんなことがあってか月日が流れ水洗便所が普及し始めると、そのあたりでは我先に導入したそうだ。水洗便所に切り替わると、不思議とそういった不可解な現象はなくなっていったという。結局、陽一の死後の覗きが誰のもものかははっきりしなかった。本当に霊によるものか、それとも悪戯の類か、便乗したものなのか・・・今となっては真偽は全くわからない。
この話の最後に叔母は言った。「仮に陽一の霊だとして、行き場を失った陽一はどこに行ったのかね?あの子にはどこにも居場所がないように思えるよ」と。
陽一の無念が水に流れたのかは誰にもわからない。
ゾッとするけど読み応えがあった。
無念って…自業自得では?
ボットントイレ。
昭和40年頃、兼業農家だった友人宅には、外に便所がありました。
便槽に板を渡しただけの掘っ立て小屋。
夜は、裸電球一個のみ。
不衛生に加え、安全面でも問題おおありで、昼間でも怖くて入れませんでした。
当時の時代背景を知る者として、厭な思い出が蘇る後味の悪い事件ですね。
最後の一文に座布団一枚!
うまいこと言った!
とくのしんさん、うまいなぁ。
ラストで爆笑。
落ちうますぎやろ
オチ、やられました!
このオチ、はて、笑うところであろうか?
うんんん、どうだろう
大分一家6人殺傷事件思い出した。一歩間違えばあーなってたかもと思うと自ら処してくれて良かったと言えるかも。それはそうと幽霊も最近は電話ボックス、ボットン便所等々次々棲家を奪われ肩身が狭そう。