不動産屋の時のお話~口笛~
投稿者:斑 (4)
これは私が昔不動産屋に勤めていた頃のお話です。
当時、人数の少ない不動産会社で営業を担当していた私は、物件のご提案から仲介、買取等の業務を行っていました。その日は上司が受けた物件の査定依頼があり、一緒に見に行く事に。依頼者の女性と現地で待ち合わせて合流しました。
物件は小高い丘に位置していて解放感があり、建物も古いのですが面積の広い二階建てがついていました。いいじゃん!値段によっては買い取っちゃおうか?と上司はすでに乗り気です。
挨拶を済ませ中に上がらせてもらうと、まず目に入ったのは三間もの座敷を使って大きく設けられた祭壇。真ん中には男性の遺影があり、祭壇だけとは言えものすごい存在感でした。依頼者である女性は奥様との事。旦那様が数週間前に亡くなり、一人では管理しきれないので子供達のところへ引っ越すとの事でした。
特別立派な祭壇に関しては宗教の関係であり次の集まりが終わったら撤去する予定で、ならば気にしなくていいかと上司はそれよりも建物が気になるご様子。ストレスが溜まっていたのか、もとからなのか、饒舌な奥様に案内をしてもらいました。
思ったより経年劣化が見られるものの、立地条件が整っているので買取を視野に入れて室内を回り、二階を見せてもらう事に。親族のいざこざや苦労についてマシンガントークを続ける奥様に続いて、年季の入った階段を上ります。
階段の中頃に差し掛かったあたりでしょうか、私は外から口笛が聞こえる事に気づきました。奥様の勢いあるお話は集中を散らすには十分過ぎる程度で、私は適当な相槌で流す上司と奥様の会話をうっすらと聞きながら物件の細部を見ていました。最初は遠くで誰かが散歩でもしているんだろうな~などと考えており、浮かんだのは中年男性が散歩しているイメージ。そのまま深く考えず二階の説明を聞いていましたが、口笛は次第に大きくなり、物件の前の道で吹いているのかな?こんな大きな音で恥ずかしくないのかななんて考え始めました。
上司も聞こえているはずですが、止まらない奥様のお話を受け流しながら物件のチェックに勤しんでいる様子。おそらくひとつでもこちらから何か発言しようものなら、その事について延々と語られてしまいそうなので始終相槌に徹していました。口笛の事なんて話題にできません。
二階の案内が終わる頃には口笛が妙に気になり、そもそも何の曲なんだろうと考え始めました。ずっと同じパートを繰り返し、中々大きく響くそれについて考えたその時、強烈な頭痛と吐き気に襲われます。必死に平静を装う中、さらに大きく頭に響く口笛と共鳴するかのように耳鳴りも聞こえ始めました。「あ、やばい」とその時直感しました。これはもしかしたら普通の口笛ではないかも知れないと。
建物や敷地についての案内が終わり、会社に帰る車の中、何でもないように上司へ「いや~、奥様大変でしたね。ところで口笛うるさくなかったですか?」と聞きました。変な違和感があったので、そこでさらっと上司にうるさかったよねと流してもらえれば安心できる気がしたのです。
思い当っていなかったようなので詳しく話すと、上司は運転しながら真顔になり、「そんなの聞こえなかったよ。怖い」と言いました。私のこういった言動はその会社に入ってから多くなっていたので、上司は受け入れてくれていましたがお互い怖がりなのは変わりません。
会社に着き、皆に雑談を交えながら二人で報告すると軽い笑い話になって気にならなくなりました。「全く~!変な事言うなよな~」と笑いながら社長がふざけて怒った様子を見せ、「あ、今何時?」と聞かれ時計を見ると、あの家を出た時間で止まっています。一瞬青ざめましたがそんなの電池切れだと自分も周りも少しだけ無理に笑いました。
その後時計は修理に出し無事動いたので、お代を払おうとすると時計屋さんは断りました。理由を聞くと「別に電池もあるし壊れてないから。大丈夫だから」と時計や私を見もせずに強引に去ってしまった時計屋さん。時計屋さんには、何か見えていたのかも知れません。
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