神社のライブ配信
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
いわゆるIT社長の父が数年前に再婚した。
母が原因不明の病気で亡くなった後、急に父と親密になったらしい。
新しい母(以降「後妻」とする)は、ちょうど思春期の私とどう付き合えばいいのか、お互いにわからなかった。
私が言うのも何だが、父の収入はかなり高くて裕福だし、昔から世話になっているお手伝いさんもいたから、しばらくは再婚なんてしてほしくなかった。
後妻は次第に私や父にいろいろと口出しするようになって、そのせいでそのお手伝いさんもやめてしまった。
私が大学に行くか就職でもしてここから出て行った後、父と後妻の二人だけで暮らすという思惑だったようだ。
ただ気になるのは、後妻が年々痩せたというか、やつれているように感じていた。
再婚した当時は健康そのものといった感じだったが、今は明らかに体調が悪いと言っていい。
そのせいか、足が少し不自由と言うか、何となくぎこちない歩き方をするようになっていた。
不思議な事に、私には「ざまあみろ」という気持ちと「気の毒に」という気持ちが混ざり合った、なんとも言えない複雑な感情が芽生えていた。
私はオカルトや怪談、都市伝説に興味がある。
そんな話を見たり聞いたりすると、その時だけは現実逃避できるような気がしていた。
特にこの1年くらいは、部屋で一人になるとその類の動画を見るようになっていた。
心霊スポットを紹介した動画などをよく見るのだが、その中には全国各地の神社やご神木を映すライブ配信がある。
クラスの友人から、近所の○○神社にもライブカメラがあると聞いてから、それを見るようになったのだ。
○○神社は普段は人がいない事も多く、防犯も兼ねてライブカメラを設置しているらしい。
寝る前になると、その○○神社のライブ配信を見るのがいつしか習慣になっていた。
深夜になると、カメラは夜間モードに切り替わり、白黒の画面になっている。
毎日のように見ていても特に代り映えのしない映像ではあったが、風にゆれる木々の映像やそのかすかな音が何とも心地よかった。
ただ気になるのは、時々このご神木の奥にあるちょっとした大木の陰に人影が見える事があった事だ。
最初はここに忍び込んだヤンキーや肝試しに来た人だろうと思っていた。
何度かその姿を見ると、それが同じ人だという事に気が付いた。
その人は白っぽい服を着ていて、どうやらそれは女のようだった。
今日もその配信画面を見ていたのだが、またその女が映っていた。
女は、腕を大木に向かって何度もたたきつけるような動作をしていて、その手は鈍く光る金槌を握っていた。
それが「丑の刻参り」だと私は理解した。
よく思い出すと、前に見た時も同じ動作をしていたが、微妙に高さや向きがちがう。
つまり、何度か丑の刻参りをしていて、その都度藁人形が増えているということだ。
言うまでもなく、丑の刻参りは人に見られてはいけない。
誰かに見られてしまうと、その呪いは相手ではなく自分に返って来ると聞いたことがある。
誰を呪ってるんだろう……
コメントありがとうございます。
コメントを頂いて気が付いたんですが、呪う相手がはっきりわかるのと分からないままでは、どちらが怖いんでしょうか…。
これからの参考にしたいので、ご意見を頂ければ幸いです。
作者より
丑の刻参りの女は後妻ですよね、段々弱っているのは呪っているところを、不特定多数のライブカメラ鑑賞者にみられているからでしょうか