ダムの底の村
投稿者:上龍 (34)
短編
2022/03/11
21:03
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心霊スポットとして有名なあるダムを訪れた時の話です。
平日に休みをとって観光に来たせいか、周囲には誰もおらずゆっくり見物ができました。
しばらくカメラを構えてダム周辺を歩き回っていると、ぱしゃんと魚がはねる音が聞こえました。
シャッターチャンスに浮かれて柵から身を乗り出したものの、波紋が立っているだけで魚はいません。
思わず舌打ちし、かすかにさざ波だった水面を見詰めていると、急に意識が遠のいていきます。
水面の向こうで何かが揺れています。かと思えば白っぽい影が急激に浮上してきました。魚にしては大きすぎます。
「ひっ!」
水面すれすれに浮上してきたのは、真っ白な経帷子を羽織ったおじいさんでした。
息をしてないのは口から泡がでてないので明らかです。
仰天して手が滑り、うっかりカメラを落としてしまいました。カメラが水没するのと入れ違いにおじいさんは沈んでいき、やがて完全に見えなくなります。
一体何だったの、アレ……。
放心状態で現場を離れた後、スマホで検索をかけて恐ろしい事実を知りました。
このダムの底には村が沈んでおり、古い墓地には遺骨が置き去りにされたままだというのです。
「昔は土葬が主流だったから、掘り出すわけにもいかないもんね」
私が見たおじいさんは、今もダムの底でお墓参りにきてくれる人を待ち続けているのでしょうか。
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