親切な女
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
私は定年退職してから物忘れが多くなってきた。
裸足のまま外に出かけていたり、漏らしたことに気づかないまま家に帰ってきた事もあった。
近所を散歩している途中で道に迷った時は、近所の方や、時にはお巡りさんに家まで連れてきてもらった。
もともと私は方向音痴ではあったが、何十年も住んでいるこの町でなぜか道に迷うのだ。
そんな私を見かねたのか、最近は親切な方々がたくさん来てくれている。
宝石商を名乗る男は、妻の形見の宝石を買い取ってくれた。
骨董商を名乗る男は、床の間の壺や掛け軸を買い取ってくれた。
古書店から来た男は、書斎の本を引き取ってくれた。
新聞の販売店から来た男は、家に上がると引き出しからお金を出して支払いを終わらせてくれた。
リサイクルショップから来たという男は、もう使わなくなったバッグや腕時計、CDまで買い取ってくれた。
彼らのおかげで、この家はスッキリ綺麗に片付いた。買い取ってくれそうな物はもう何も無い。
彼らは色々買い取ってくれたが、お金はどこに置いて行ったのだろう。
もらってない気もするし、だとしたらいつ持ってきてくれるのか聞いてなかった。
ところで、その「しんぶん」とやらはどこにある?「かいとり」とは何の事だ?
ここ数日、親切な女が来てくれている。
この女は洗濯や食事の世話をしているが、一体どこの店から来たのだろうか。
そういえば昼に見たドラマは、一人暮らしの男の家に来た家政婦が、その男を殺して金品を奪うという内容だった。
そうか、あの女は家政婦なんだな。
女は立って洗濯物を干していた。
私は手伝うふりをして近づき、女が向こうを向いた瞬間、持っていたひもで後ろから首を絞めた。
ところが、年老いた私の力では、なかなかうまく絞めることができない。
女は必死に抵抗してジタバタしていると、つまずいて二人で重なるようにして倒れてしまった。
その勢いでかえって腕に力が入り、首をうまく絞める事ができた。
私は首を絞めながら、その表情を見てやろうと女の顔を横から覗き込んだ。
女は苦しみながら声を振り絞った。
「私の顔も分からなくなったのね、お父さん…。」
しばらくして、女は動かなくなった。
怖くは無いけど、星新一っぽくて好き。
コメントありがとうございます。
この投稿もそうですが、他の物も「怪談」と称していいものかどうか悩みます。
イメージとしては星新一もそうですが、もしかしたらヒッチコック劇場にも近いのかもしれません。
いずれにせよ、気に入っていただけて嬉しいです。
作者より
認知症の祖母がゆうちょの人にジュース買わされたり変な契約させられたの思い出したわ。今では私の名前もわからない…
息子に介護されてる母親が息子に
いつも親切にしてくれてありがとうね
あなたとってもハンサムだけど私の息子はあなたより もっとハンサムよ
いやぁ~切ないっすね