押し入れの中には……

上京したての私は安く借りられる部屋を探していた。
不動産屋をハシゴするうちに格安の物件に出会い即契約を結んだのだが、この部屋が事故物件だった。
詳しくはわからないが、前の住人が心を病んで自殺したらしい。不動産屋は言葉を濁し多くを語りたがらない。
しかし私は全く霊感がなく幽霊も信じてなかった為、別に構わないかと安易に流し、荷物を運びこんで新生活のスタートを切った。

入居した夜から早速悪夢にうなされるようになった。寝ていると首に絞め付けを感じ、妙に息が苦しくなるのだ。
友達の家に泊まった夜には起きない現象だから、原因はこの部屋にあると考えて間違いない。

それでも家賃が安い部屋を手放すのが惜しく生活を続けていたのだが……。

入居から三か月後、季節の変わり目。長袖の服を収納しようと押し入れを覗いた所、上下段の仕切りの板の裏に何かが貼ってあるのが見えた。何だろうと首を突っ込んで確かめぎょっとする。

仕切り板の裏一面に梵字が記されたお札がびっしり貼ってあった。
誰が貼ったのかはわからない。心を病んでいたらしい前の住人が貼ったのだろうか。否、もしかしたら逆ではないか？この部屋には元から幽霊が出て、それが原因で前の住人が病んでしまったのなら……。

真相を知る手立てはなく、今も同じ部屋で暮らしている。
私の推測にすぎないが、前の住人は押し入れで首を吊り亡くなったのかもしれない。