真夏に彷徨う餓鬼
投稿者:一ノ森 (4)
これは私の地元に伝わる風習のお話です。
私の地元では、毎年お盆になると特別な祭壇を玄関の前に飾ります。真っ白な木でできた祭壇で、大人の太ももくらいまで高さがあるものです。
そこに榊を飾り、白い器を2つ置きます。
少し深さがある方には水を、お椀状の方にはあらめという海藻で作った酢の物をお供えします。
そして線香を立て、合掌をして1日目の作業はおしまいです。
2日目には、水を足し、あらめの酢の物が入っているお椀にこれでもかと白米を盛ります。
そのようにお盆の間中、祭壇から水と食べ物を絶やさないよう、お供えし続けるのです。
お供えするものも何日目にはこれ、と献立が決まっていました。
幼い頃の私にはその光景が不思議で、少し怖く感じました。
お盆にお墓参りをするのは分かります。
ニュースなどを見ても全国的にそのような行事があるのは知っていましたから。
でも、真夏で徐々に食べ物は傷んでいくのに、どんどん山盛りにしていく大人たちの姿は、正直に言って異様でした。
自分たちは食べないおかずを祭壇に供えるためだけに母が作っていたり、「祭壇の水を絶やしてはいけないよ」と祖父に言われたりするのはどうしてなんだろう、と思っていました。
ある日、母に尋ねてみたところ「お盆にはご先祖様だけでなく、餓鬼さんが帰ってくるんだよ。」と教えてくれました。
「餓鬼さんは、食べるものがなくて亡くなってしまった人達のこと。足や手は棒のように細いのに、お腹だけ妊婦さんのように大きいの。
そういう人達のために、ここではお水やお供え物を外に置いているんだよ。そうすれば悪さをせずにお盆が終わったら向こうにまた帰っていくからね。」
なるほど、と思ったのと同時に、水やお供え物をしなかったらどんなことが起こるんだろうと怖くなりました。
同じような風習が地元にも。ずっとお供えしておくわけではないですが、『ガキさんにあげるんだよ』といって食べ物を用意してましたね。子供の頃から『ガキさん』って誰だろ…と思ってました。なるほど…『餓鬼』ですね。