とある組の死体処理担当
投稿者:イエティ (51)
そこにいたのは、若頭の愛人だった。
つまり彼が昔手を出し、A会の元愛人であり現在のZ組組長の愛人である。
彼女は、腹部の刺傷を抑え、意識が朦朧とする中でこうなった経緯を話し出した。
彼女は40歳を目前に、組長に相手にされないさみしさからある男と関係を持ち、それが組長の耳に入った。
組長は愛人の中では古株である彼女に愛情も何もなかったが、自分のものに手を出された嫉妬心からその男を殺した。
彼が先週処理したものだろう。
組長は、その男への想いや罪悪感から気を病んでしまった彼女をひどく嫌悪し、挙句の果てに殺そうとしたわけだ。
彼女は知っていた。
死ねば、処理するのは彼だと。
ここで死んだふりさえすれば、彼の元へ送られる。
彼の元にたどり着ければ助かるかもしれないと。
数時間後、案の定大きな袋に包まれ、彼女は腹部の痛みと出血の苦しみを必死に耐えた。
彼は腹部の傷を見た。
・・・もう無理だった。
刺されて数時間、かなりの出血で、傷はおそらく内臓に達しているだろう。
ここには縫合糸も無ければ、消毒液も輸血パックもない。
いっそ楽にしてやった方が彼女の為だ。
彼は10年以上前に一晩を共にしただけの彼女に愛情はなかった。
しかし自分の復讐に巻き込んでしまい、その結果こうなってしまっていることへの罪悪感からどうにか助けてやりたかった。
彼は自分用の救急パックを取り出した。
どうにか、応急処置だけでも…そんな思いで。
彼女の服をめくった。
筋肉の鎧に守られた屈強な体ではない、細いその腹からは内臓がはみ出ていた。
なぜこの数時間を耐えられたのか、理解ができないほどの傷口だった。
めちゃくちゃ読み応えありました
ヤクザ×心霊
どちらも社会の暗部、アングラな想像力を掻き立てる要素故に、とても相性がいいものですね。
非日常感がいい塩梅に描き出されていて面白かったです。