少年に会いに来た白い足首
投稿者:熊猫 (10)
まだ、私が5歳当時のある夏の日のことでした。
このころ住んでいた実家はとても狭い2DKの平屋で、その一角には6畳ほどの畳部屋があり、ここに毎晩両親と姉と私の4人は川の字で寝ていました。
私と姉が当時幼かったとはいえ、この部屋に4人で寝るのはとても窮屈で、しかもその夏は例年よりも熱帯夜が多かったため、なかなか寝付けませんでした。
その日も寝苦しく、まだ外が明るくならないうちに目を覚まし、閉まっていた窓を開けようと眠い目をこすりながらも両親を跨いで窓際へと行きました。
鍵に手をかけたとき、窓の下の縁の方から何か妙な気配を感じたのです。
不思議と恐怖心はなかったのですが、気になった私はレースのカーテンをたくし上げ、目線を下げてみると、窓の桟から大人サイズの白い足首が覗いていたのです。
寝ていた両親の足と間違えたのだろうと思われるかもしれませんが、それは違うと断言できます。
なぜなら足首から指先までの”それ”はまぎれもなく窓側から生えており、足裏が外ではなく部屋側を向いていたのですから…。
両親の足ならば、足裏はむしろ窓の方を向いていなければおかしいのです。
5歳児だった当時の私からしてみれば、こんな理屈はそもそも頭に浮かばず、窓から足が生えていることにただただ疑問を抱くばかりでした。
「これは誰の足なのだろう」そんなことを考えていると余計に気になってしまい、知らず知らずのうちにそこにしゃがみ込み、その足裏を上から人差し指でなぞっていました。
ガサガサとしたその白い足は私の人差し指に反応し、足先をくねらせてくすぐったそうにしました。
それを見て楽しくなった私は指をつまんだり、窓の縁から足を抜こうと引っ張ったりしましたが、ビクともしませんでした。
体感時間で言うと15分くらいは”それ”をいじっていたと思います。
すると母親がバッと起きて、窓の方でガサガサしている私を見つけるなり、早く寝ろと一喝しました。
「足があるんだよ」と言っても信じてもらえず、布団の方から戻ってこいと叱られたのでした。
怖いというよりもむしろ楽しかった。あの不可思議な体験はいったい何だったのか2年ほど前、食事をしていた際にふと思い出したので両親に当時のことを改めて話してみました。
すると母親は、足があったかは知らないけれど、あんたが窓際でずっとブツブツ言っていて寝なかったことがあったのを覚えていると話し、続けて父が「もしかしたら」とポツリ。
何でも父親のお父さん。私の父方の祖父は、父が幼稚園のころに癌で亡くなって、悲しんでいた父に親戚のおばさんが「これを大事に持ってなさい」と祖父のお骨のペンダントをくれたそうです。
そして私が不可思議な体験をした当時、そのペンダントは寝室の窓際の化粧台の引き出しに入れていたのだとか。
何よりも驚くべきは、そのお骨は足の部分だったらしいのです。
それを知った私は、この不可思議だと思い続けていた体験が一気に暖かい愛のこもった体験へと昇華されたのでした。
会うことのなかった私の祖父と触れ合った唯一の思い出として、そっと胸にしまうのでした。
爺ちゃんの足をくすぐる孫(笑)