俺は某有名大会社のサラリーマンで、専業主婦の妻は自分を漫画家だと称している。
結婚当初、妻は専業主婦で時々パートに出るくらいだったが、昔から書いていた漫画をSNSに上げたら思いがけずバズったらしい。
それに目を付けた出版社から声が掛かり、あっという間に売れっ子漫画家になったらしい。
「らしい」というのは、そのジャンルはBLとかいうらしく、俺は漫画には興味が無くてよくわからないからだ。
建売で買った俺の家の一部屋に籠って、妻は今日もまた漫画を描いている。
アシスタントと称するいつもの女性二人に加えて、締め切り間際になるとヘルプとかいう臨時の人も来るようになった。
その部屋は、いつか子供が出来た時のための子供部屋のはずだったのだが、いつのまにか妻の漫画部屋になっていた。
俺は「時々パートをする程度の専業主婦」と結婚したのだから、漫画家と結婚したつもりは全く無い。
だから、毎日の朝食とか晩飯を用意してもらわないといけないし、掃除や洗濯もきちんとやっていないと俺が困るのだ。
たかだか専業主婦なのに家事がおろそかになっている時は、妻を怒鳴ったりする事もよくある事だ。
専業主婦である妻を愛するがゆえに厳しい言い方になっているかもしれないが、これは仕方がない。
漫画と言えば手塚治虫と藤子不二雄くらいしか知らないし、そもそも女に漫画なんて描けるはずがないのだ。
妻は昔から絵がうまくて、特に似顔絵が得意だ。
俺も妻に倣って似顔絵に挑戦した事があったが、うまく書けななかった。
結婚当初に書いてもらった俺の似顔絵を縮小コピーしてラミネートし、いつも財布に入れている。お守りみたいなものだ。
そのおかげか、妻とは今でも仲が良く、時々同じ夢を見る事がある。
去年だったか、妻が妙な「正夢」を見たと言っていた。
どこかの公園のベンチに座っていると、赤い風船がふわりと目の前まで漂ってきた。
風船を手に取ると、なぜか持っていたマジックで、何となくかつて働いていた職場のセクハラ上司の顔を描いてみた。
描き終わってその出来栄えを確認したところで、その風船がパン!と割れた。
驚いたところで目を覚ますと、そのセクハラ上司が事故死したと元同僚から連絡があった、という内容だった。
今年の初めにも妻は同じ夢を見たと言っていた。
風船に高校時代のいけ好かないクラスメイトの顔を描くと風船がパン!と割れ、目が覚めたらその女が自殺したと幼馴染から連絡があった、という話だ。
女のたわごとなど真面目に聞いていないのだが、大体こんな内容だったと思う。
何かの偶然だろうが、俺もぼんやりとほとんど同じ内容の夢を見ていた。
日本男児!
スマホでは読みづらいみたいなので、改行を調整しました。
ついでに見出し画像も変更してみました。
作者より