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不思議体験

キミ・ナンヤネンさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

トマソン
短編 2021/06/23 01:12 2,107view

古い建物、特に増改築を行った建物には、例えば外階段を上った先にはドアも何もないとか、逆に2階の壁にドアだけがあるとか、そんな状態になっている建築付属物がある。これを「トマソン」と言うらしい。

俺が住んでいるマンションの隣にある、いわゆる町工場となっている建物にトマソンがある。

この工場は鉄骨の2階建てで、といっても1階の天井はかなり高く、2階部分は実質3階と同じ高さがある。
建物の脇には外階段があって、そこから2階に行けるようになっていた。

ただ、以前この外階段から空き巣に入られたり、腐食が進んで危険だったりと、色々と問題があった。
そこで、工場の社長は建物のリフォームを行い、外階段を撤去しドアを塞いでその一面を全て壁にした。
しかし、リフォーム後、なぜか壁から1枚の「板」が飛び出していた。

階段を上る途中の床面は踊り場というが、登り切ったドアの前の床面の名前がわからないから、ここでは「デッキ」と呼ぶ事にする。

デッキは建物の鉄骨と一体になっていたらしくて、切断に手間がかかるということで撤去しないまま残ってしまった。
その撤去に費用がかさむ事と、それだけが残っても何も問題が無いと工場の社長は判断したらしい。
その結果、まるで高飛び込みの飛び込み台のように、地面から7メートル程の高さに1枚の板が壁から飛び出しているようになったのだ。
俺も含めて近所の人たちはそのいきさつを大体知ってるから何ら不思議でもないのだが、いつしかこれがトマソンとしてネットで紹介されていた。

工場のリフォームがあってから1年ほどした頃だった。

夜勤明けで早朝にマンションに帰る途中、工場の前からちょうど救急車が発車するところに出くわした。

早朝とは言え野次馬が5~6人ほどいたから何があったか尋ねると、工場で転落したか飛び降りがあったという事だ。

俺のマンションの部屋は6階の突き当りで、廊下の端や部屋の窓からは工場を見下ろすことができる。
朝のテレビを見ながらソファでウトウトしていると、部屋の前の廊下が何だか騒がしくて目が覚めてしまった。

廊下に出ると警察官が数人いて、少し話を聞くことができた。
警察官は、今朝の転落した人は、このマンションの何階かはわからないが、廊下の端から飛び降りたと考えていたそうだ。
マンションと工場の位置関係から高さや距離感に不自然な点は無かったのだが、どうしても不可解な点があるという。
7メートルの高さにポツンと1枚だけ飛び出しているデッキに、綺麗に揃えられた靴と遺書が置いてあったからだ。

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コメント(2)
  • 偽装ってことかな?

    2021/06/23/02:13
  • 寄り道か。

    2021/06/23/07:47

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