『ブラックマン博士に怪しいところはないのですね』
大崎探偵と災害対策課の課長の会話は続いていた。
『昆虫を使って廃墟からガレキを撤去する話は本当です』
大崎探偵は調査結果について報告した。
『昆虫は集めたガレキで巣を作り、その中に卵を産む』
『私には詐欺としか思えないのだが』
俺にもそう思える。常識人ならそう考えて当然だろう。
『しかし詐欺だとすると、博士に金銭的メリットがないのです』
『ふ〜む』
課長は頭をひねった。
『確かに博士とは成功報酬の約束をほとんどしてない。こんな詐欺があるだろうか?』
無報酬の詐欺があるはがなかった。
『成功報酬をほとんど要求していないなら、少しは要求しているのですね』
北風が二人の会話に割って入った。
『彼女は有能な探偵です。彼女の質問に答えてあげてください』
大崎探偵は北風を信頼していた。
『それは昆虫の巣が作られた土地を博士の名義にすることです』
巣の面積は100平米ほどだ。約30坪、畳60枚くらいである。
『それはこれから出来る巣についても同じですか?』
『住民は不動産の権利を放棄して町から避難した』
課長は答えた。誰も廃墟の町の固定資産税は払いたくないだろう。
『すると博士に土地の権利を譲渡する約束をしたのですね』
『あの時は約束するしかなかった』
課長は青ざめていた。事の重大さにやっと気づいたようだ。
『たかが100平米の土地でしょう』
一人だけ事情が理解できない俺は気楽に言った。会議室にいた3人の視線が俺に突き刺さる。
『昆虫の巣はガレキの多い場所に作られる。大型施設があった跡地だ』
大崎探偵は渋い顔で言った。
『避難民が帰ってくれば建物を再建する。昆虫の巣は再建の邪魔になるはずだ』
俺にはまだ理解できなかった。ホテルやデパートの片隅に昆虫の巣があるくらい構わないだろう。
『片隅とは限らないわ。敷地の中央かも知れないじゃない』
北風は恐い顔で俺を睨んだ。
『それは大変だ』
俺にもやっと事態が飲み込めた。
『現代の二十面相は賢いな』
昭和の二十面相は宝石や美術品を盗んだが、現代の二十面相は不動産を盗むのか。
そのとき事務員の女性が会議室に戻って来た。
『給金を支払うに当たってお名前を教えてください』
『俺の名前は太陽です』
俺は迷いもなく答えた。
『はっ』
事務員は静止した。
『ニックネームでなく本名を教えてください』
いや太陽が俺の本名なのだが。
『彼の本名は大河陽一郎です』
またしても北風が助け舟を出した。そうか、俺の名前は大河陽一郎だったのだ。

























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