第四話 紐なしバンジージャンプ
『自殺しても家族のところには行けませんよ。自殺すると地獄に行くからです』
俺は死神に教えてもらったあの世の仕組みを話した。
『妻と娘に会えるなら地獄に堕ちても構わないと思ったのに・・・』
やっぱり犯人は運転手を殺して自殺するつもりだったのだ。
『地獄とはどんな場所なのか?』
地獄に関しては死神からくわしく聞いている。
『まず地獄にはネット環境がありません』
スマホ中毒者にとってはまさしく地獄だろう。
『ネット以外にもあらゆる家電製品が現世より50年以上遅れています』
テレビはモノクロ、冷蔵庫は氷で冷やすタイプ、洗濯はタライで手洗いだ。
『レトロな暮らしが好きならともかく、便利な生活に慣れた現代人には耐えられないはずです』
犯人はポカンとしている。考えていた地獄とは違い過ぎたのだろう。
『血の池地獄や針山地獄はないのか?』
『そんなもの空想の産物です』
俺も死神に聞かされたときには目が点になった。
『死神は地獄をへき地と呼んでいるそうです』
あの世は雲の上だからレアメタルも鉄鉱石も採掘できない。電化製品を入手するには現世で買って輸送するしか方法がない。
最初に死神に会ったとき使わなかった寿命を別の人に売ると言ったのは、現世で電化製品を買うためだったのだ。
『それなら自殺以外にどうやって死後の世界に行くのか?』
『まもなく死神が迎えに来ます』
部屋の壁に大穴が開いた。実際に壁が崩れたわけでなく黄泉の国に通じるトンネルの入口が開いたのだ。
『お待たせしたな』
毎度おなじみの死神がいつもの人力車を引いて現れた。
『大きな鎌は持ってないのか?』
犯人は車夫の姿の死神に戸惑っていた。大鎌を持った死神が現れるものと期待したのだろう。
『注文のものを持って来たぞ』
人力車に乗せられていたものは俺だった。歩行者天国で落雷に遭い病院で今の俺と入れ替わったもう一人の大崎恭二だ。
『動かないけど死んでいるのか?』
まるでマネキン人形みたいだ。


























投稿者のグレートリングです。
最上階からマネキン人形を落下させるシーンはルパン三世ファーストからのオマージュです。自殺を装おって本物のルパンはハングライダーで脱出するトリックを真似させてもらいました。