あんな人でも、日野さんは先輩だから。払われなかった部費を一括で収めてくれたから。とにかく穏便に…という考えの方が勝っていたために、部長以外の部員は、嫌なことをされても強く出れなかったのだ。その弱さを、まんまと日野さんに利用されたと言っていい。
というか…今思えば日野さんは、私たちの日和見な親友関係の中に隠されたある種の「脆さ」を感じ取っていたのだろう。良くも悪くも、温いようで実はぬるいだけ、みたいな…微妙な、微弱な違和感に勘付く能力があったのだと思う。
…実際、日野さんは厄介なことばかりする一方で、時折ハッとさせられることを言う人だった。
「お前らほんっとうに真面目過ぎ!つーか、クソ真面目にミニシアターとかみてんじゃねーよ!あれはただのオシャレ映画!意味もくそもねーんだよ!」
「お前らさあ、綺麗にキレイに撮ろうとばっかりしてるだろ?交通安全ビデオか何かか?見た目はキレイで良いかも知れねぇけど、これじゃあ観てても何にも引っかからねぇんだよな…」
作品に関して延々とクダを巻けるくらいだから、映画は好きだったはずだ。
けど、後輩が生真面目に、「ちゃんと」活動をしようとしているのが、日野さんにとっては面白くなかったのだろう。
…でも、これは正直、憶測にすぎない。本当のところ、何故日野さんがこんなにしつこく部室に入り浸り、後輩の活動を気にするのか分らなかった。
撮影の手本を見せるでもなく、作品になにかいい助言をしてくれるでもなく、いつも口だけだったから、日野さんが来るのをを殆どの部員は煙たがっていた。
だから、仕事か何かで、ある時を境にピタリと訪れなくなった時には、皆、心の底から安心していた。
だが―――日野さんが来なくなって安心したのも束の間…映画サークルは、活動を停止せざるを得なくなってしまった。
卒業生が色々と面倒なことをしてくる…という印象が、いつのまにか後輩たちの間で広まり、後継となる新入部員が、一人も入らなかったのだ。
イメージを良くして勧誘しようという案もあった。しかし…「それでもし存続したら、また日野さんが来襲するのでは?」と、不安を拭えぬ人も多く…何度か話し合ったのち、結局は廃部を受け入れ、「でも、どうせなら最後に一本だけ、皆で映画を作って終わろう」という結論に至った。
そしてその作品は、大学を卒業後の、まさに今日の同窓会で、上映する、と―――
「おーい!久しぶり!…ほら、こっち、早くおいでって!」
同期の女子数人が、私に気付き、店内から笑顔で手招きをする。皆、多少年齢は重ねたけれど、当時の面影がある。変わらない。一人一人、服の趣味も佇まいも、大学時代と大して変わらない。
しかし、店の奥…
客席の一番奥に用意された、巨大なスクリーン幕の左端にいるその人だけは―――
「ねえ…あれさ…あの…あの人…」


























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