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妖怪・風習・伝奇

バクシマさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

バズ美(前編)
長編 2026/09/29 02:36 77view

……さてここはバズ美と老人が出逢った海岸。バズ美と老人は夕暮れに黄昏ながら海を眺めていた。
「のう、バズ美さんや。なんとも上手くいかんのう」
「まだよ。ここで心を折ってはだめ。次の出会いを大切にするのよ」
「そうは言ってものう。次の出会いのあてはあるのかいのう?」
「うぐ」
 バズ美は悩む。自分のやり方が全然に功を奏していない。考えてみれば自分自身には恋愛経験がない。つまりは知識だけが豊富な耳年増に過ぎないのだ。
「私の恋愛スキルは、ただの生兵法だったのね……」
二人は途方に暮れた。
 このどんよりした空気を察したのか、老人は話題を変えた。
「ところで、先程の頭の陥没したお嬢さんじゃがのう。なんであんな醜い怪我を残したままなのじゃろうか? せっかく幽霊なのだから、元通りの姿にしてしまえば良いのにのう……」
 それを聞いて、バズ美は呆れた顔をする。
「なに言ってるのよ。幽霊だからこそ死ぬ間際の姿に捉われているんじゃない。 好きな姿になれるなら、みんな自分の一番綺麗だったときの姿でいるわよ」
「そ、そうなのか!?」
「アンタも幽霊なのに、なに頓珍漢なことを言ってるのよ」
「しかし、儂って割とマッチョになれたりするんじゃがのう」

「アンタのマッチョ化はちょっとしたバグみたいなものよ。誰が好き好んで爺になるのよ」
「いや、バグってひどくないかのう」
「ふふ……でも、アタシはそんな爺なアンタも嫌いじゃないわよ」
「……トゥンク♡」
 老人は顔を赤らめる。
二人の間に、妙な間ができた。
するとそのとき
「よろしいでしょうか?」
不意に背後から声をかけられた。
「先のことでは助けていただきありがとうございました」
振り返ってみれば、人魚まがいの怪異と混浴したときに出くわした、餌になる寸前の男であった。
バズ美は、その人魚餌男に応対する。
「いいのよ。あなたを助けるためにしたことじゃないから。礼を言われる義理はないわ」
「そうは言いましても、あなた方は命の恩人です。なにかお礼をさせてください」
「それじゃあ、どこかで女型の幽霊や怪異が出たとかいう噂を知らないかしら?」

「え、心霊スポットってことですか? それならここから徒歩で行ける距離のところに、女の霊が出るという噂を聞いたことがありますよ」
「へえ、丁度良いわね。せっかくだし、案内してくれるかしら?」
「もちろんですとも」
こうしてバズ美と老人は、人魚餌男を先導に、女幽霊が出るという心霊スポットへと向かった。
「お二人は、どこか雰囲気が似てますよね。もしかして御家族なのですか」
「違うわよ、赤の他人。似てるかしら」
 目的に相反して、道中は和やかな雰囲気であった。しかし、目的地に近づくにつれてバズ美の表情が暗くなっていく。
 バズ美一行が到着したのは、大きな廃旅館の前だった。他でも無い、そこはかつてバズ美が座敷童子として暮らしていた思い出の旅館であった。
「……ねえ、人魚餌男さん。ここではどんな怖い噂があるの?」
「その呼び方は止して欲しいのですが。そうですね、なんでも、かつてこの廃旅館の女将だった女が経営不振を苦に非業の死を遂げたのだそうです。それ以降、この女が怨霊となり、この近辺のホテルで働くリゾートバイトたちをことごとく呪い殺してるという噂です。」
「……そう、寒気がするわね。」
悲壮な顔つきのバズ美とは対照的に、老人は嬉々としている。
「バズ美さん、儂なんだか、ここで良い出会いがある気がするぞい!」
「そうね。入りましょう。餌男さん。ありがとう。ここまでで良いわ」
「わかりました。ではどうぞ気をつけてください。」

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