……さてここは葬儀場前の道路。遺族らしき黒服の若い女と、葬儀場スタッフの黒スーツの青年が談笑している。
「いやあ、火葬場行きの霊柩車、なかなか来ないですねー」
「そうね。渋滞にひっかかってるのかしら」
「それしても、まだお若いのに‥‥残念ですね。急なことだから驚かれたでしょう」
「もちろんよ。殺人なんて酷いわよね。急に後頭部を金槌で殴りつけたのだそうよ」
「御顔が傷つかなかったのが唯一の救いですか」
「そうね。さっきも確認したけど綺麗な顔してたわ」
「ハハハ……」男は苦笑する。
葬儀屋に就職して数年経つが、こういう場面は始めてのことだ。
これは気まずい。それに火葬場の方はスタッフが足りているだろうか。
早く霊柩車こないかな……
「あたし、このまま延々と待ってるのもなんだから先に火葬場に行ってようかしら」
「あ、そうします? 場所は分かりますか?」
「親戚の葬儀で行ったことあるから大丈夫よ」
そんな話をしていると、車の音が聞こえてくる。霊柩車がやっと来たか? いや違う、普通のセダンだ。
そして、なぜか車は自分達の目前で停車した。
運転していたのは、透き通るような白い肌の美女だった。
さらには怪しげな仙人風の爺が後部座席から自分たちに声をかける
「のう、おぬしら。車を待っとるのか!? 乗っていかんか!?」
うわ、話しかけられた。
微妙な空気を察したのか、運転席の綺麗な女性も声をかける。
「あの、私達これから火葬場にドライブに行くところなの。 あなた達も一緒に行かないかしら?」
「え、火葬場に行くんですか?それなら同乗させてもらえると助かります」
女は渡りに舟とばかりに車に乗り込む
怪しい二人組だし、同乗は悩ましいところだが、女が手招きするので渋々に続くことにした。
すぐに男は後悔した。どうやら爺は、いま乗り合わせたばかりの彼女を口説き落としたいらしい。しかしながら、
「のう! お脚が絞首台の柱のようにスラリとしたお嬢さんや! 儂と古代中国の宦官について語り合わんかいのう!?」
彼女が爺になびくことはついぞ無かった。
地獄みたいな時間に耐え、宦官の歴史やら施術法やらに詳しくなったころ、車は火葬場に着いた。
ようやく異様な空間から解放され、降車の間際、爺は彼女に声をかける。
「のうお嬢さんや。今度、儂と牛車でランデブーでも……どうだぶう?」
「どうもありがとう とても助かったわ」
彼女は颯爽と火葬場へと立ち去る。
男は、遅れないよう彼女を追いかけた。
しかし、ふと気になり車を振り返る。
老人は、哀愁のある表情でフロントガラスを呆然と眺めていた。
男は、心中でドンマイを唱えつつ、再び彼女の方へ向き直り、火葬場へと駆けていく。
追いかけながら、あらためて葬儀場スタッフの男はまじまじと葬儀の主賓を見つめる。
曇り空の下、それでもなお、風に揺れる御髪はとても艶やかで、
血を浴びた服は黒々と染まり、
日に照らされた後頭部は深々に陥没していた。


























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