Bは錯乱しながら再びアクセルを踏み込み、強引に追い抜いた。しかし、次のカーブを曲がると、やはり眼前にあの白いセダンが走っている。
何度追い抜いても、何度引き離したと思っても、絶対に「前」を走っているのだ。時速100キロを超えているはずなのに、コーナーを抜けるたび、目尺で正確に20メートル前方にあのセダンが浮き出ている。
Bは逃げ場のない無限の狂気に閉じ込められたことを悟り、半狂乱でクラクションを鳴らし続けた。眩しいパッシングの光が、白いセダンのリアウィンドウを真っ白に照らし出す。
すると――セダンの後部座席のガラスに、内側からべったりと何かが押し付けられた。
それは、水浸しで青白く腐敗した、人間の顔だった。
一つ、二つ、三つ……。
リアウィンドウいっぱいに、苦悶の表情を浮かべた無数の死者の顔が浮かび上がり、じっとBのことを見つめている。
『……もっと煽れ……』
『……もっとついて来い……』
頭の中に、耳の奥底に、湿り気を帯びた無数の声が直接響き渡った。
その瞬間、前の白いセダンが突如として霧のように消え去った。
一瞬の静寂。Bがハッと正気に戻ったとき、SUVのヘッドライトが照らし出していたのは、道路ではなかった。
そこにあったのは、途切れたガードレールの先、真っ暗な崖だった。
Bは「前の車」を煽っていたつもりだった。
しかし実際には、前の車に狂わされるまま、とっくの昔に崩落して通行止めになっていた旧道の行き止まりに向かって、猛スピードで突き進んでいたのだ。
「ヒッ……あああああああ!」
Bは死に物狂いでブレーキペダルを底まで踏み込んだ。
タイヤが狂おしく悲鳴を上げ、車体が激しく横揺れしながらスリップする。ガガガッと凄まじい音を立て、崖から転落するわずか十数センチ手前で、車は猛烈な煙を上げてなんとか停止した。
「ハァ……ハァ……た、助かった……ッ!」
あまりの恐怖に膝をガクガクと震わせ、胸を撫で下ろした――まさにその安堵も束の間。
切れていたはずのカーラジオから、ノイズ一つ混じらない、生々しく冷たい人間の声が直接響き渡った。
『もう……少し……だった……のに……』
その声に全身の血が凍りつき、Bが弾かれたように視線を正面に戻した、その時だ。
フロントガラスのすぐ向こう側――漆黒の暗闇の中から浮かび上がるように、苦悶に歪んだ無数の腐敗した顔がびっしりと貼り付き、血走った眼でじっとBを睨みつけていた。


























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。