私は正直、AIの仕組みなんてよくわかりません。
学習データがどうとか、ノイズがどうとか、そういう理屈の問題かもしれない。
そう、慰めるように言ったんです。
でも、彼はもう、聞いていなかった。
……電話の向こうで、Tがぽつりと言いました。
「なあ。……この女、だんだん、こっちに近づいてきてるんだよ」
最初の絵では、障子の向こう。
次は、座敷の隅。
その次は、女性のすぐ後ろ。
そして、最新の一枚では——
カメラの、こちら側を、覗き込んでいる、と。
私は、その絵を送ってくれ、と頼みました。
Tは、しばらく黙って……やがて、「もう消した」と答えた。
「消したけど……あのさ」
「部屋の、鏡に映るんだよ」
「……画面を消しても、鏡の中に、あの女がいるんだ」
私は何と言葉を返せばいいか、わからなかった。
しばらく、互いに黙ったままでした。
やがて、Tは、ぽつりと言いました。
「……悪いな。夜遅くに。また、連絡するよ」
——それが、Tの声を聞いた、最後でした。
翌週、彼のアパートを訪ねましたが、Tは留守で。
大家さんの話では、数日前から、姿を見ていない、と。
……部屋の中は、綺麗に片付いていました。
パソコンだけが、電源が入ったまま、机の上に置かれていた。
画面には、生成された絵が、一枚。
縁側に座っていたのは、Tでした。
その背後の障子の手前に、
うつむいた、着物の女が——満足そうに、微笑んでいました。
……皆さんも、どうか、お気をつけて。
「生成」というのは、厖大(ぼうだい)なデータの海から、「何か」を引き上げる行為です。

























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