昔、会社の独身寮にいた頃の話です。
早朝風呂に入る習慣があった私は、ある朝 5時前に共同浴場の脱衣所へ入ると、1つの脱衣ボックスが妙に目につきました。
確か浴室に1番近い左端の列だったと思います。誰かの部屋着上下と下着が無造作に入っていたんです。
一番上のズボンは裏返ったままで、まるで脱ぎ捨てたようでした。
先に誰か風呂に入っているんだなと思い浴室を見たんですが、誰もいない。
湯気の向こうを見回しても、人の気配はありませんでした。 少し変だと思いながらも、私は浴室に入り体を洗い始めました。
5時を少し過ぎた頃、同期の一人が「おはよう」と入ってきました。
私はすぐに、「なあ、あの服、お前が先に入れてたのか」と聞きました。
でもそいつは、
「何のこと?」
と、本気でわからない顔をしました。
おかしいと思い私は体に泡がついたままガラス戸越しに脱衣所を見ました。
すると、今さっきそこにあった衣類がキレイに消えていたんです。
同期が使っていたのは入口に近い右端の列で、私が最初に見た場所とは全く違う。中に入っている物も別でした。
同期が脱衣所にスリッパを脱いで入ってくる気配は、はっきり分かりました。
つまり、誰かが入浴後に何だかの事情で持ち帰らず 後から取りに来たなら気配でわかるはずです。
私と彼の時間差も、せいぜい5分あるかないかです。
私は、頭の中が完全に混乱したまま先に風呂から上がりました。
そして、脱衣所でまた足が止まりました。
最初に見たあの場所に、さっきの部屋着と下着が、今度はきれいに畳んで置いてあったんです。
最初の脱ぎ散らかした状態だけなら、誰かが深夜にふざけて仕込んだと言えるかもしれない。
でも、【消えた→畳まれて戻っていた」ことだけは、どう考えても説明がつかないんです。
あの寮には妙な気配がありました。
空き部屋の押入れに、お経の様なものが書かれた和紙のお札が、何十枚も貼られているのを見た瞬間、部屋を飛び出したこともあります。
あの朝の出来事と関係があったのかどうかは、今でも断定は出来ません。
しかし、脱衣ボックスの前で背筋は凍りついていたのです。























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