メンヘラのアオイちゃん
投稿者:四川獅門 (33)
それまでは暗黙の了解のように直接口には出さなかったが、この時彼は初めてアオイに「愛してない」と伝えた。
すると、ドアノブの音が止まった。
宮野さんが恐る恐るドアスコープを覗くと、外から血眼で覗き込もうとするアオイと目が合った。思わず短い悲鳴を上げる。
「宮野くん?いるんでしょ。開けてよ」
「私、手首切っちゃった。痛いよ……助けて……お願い。」
「いい加減にしないと警察呼ぶぞ!」そう宮野さんが怒鳴ると、啜り泣く声は遠ざかって行った。
翌朝彼が部屋を出ると、玄関の外側のドアノブにベッタリと血がこびりつき、コンクリの廊下には自分の部屋へと続く血の染みがぽつりぽつりと残されていた。
宮野さんは自分の女癖の悪さを反省しながらドアノブと廊下の拭き掃除をした。
コンクリに染み付いた血は、うっすらと残って消えなかった。
それから宮野さんは、外に出る度、アオイがどこからか出てくるのではないかと気が気では無かった。
自然と女遊びもしなくなっていた。
ある夜、彼が仕事から帰ると、部屋の中に強烈な違和感を感じた。
女物の香水の匂いが、部屋の中に漂っている。
アオイの匂いだ。
「鍵は閉めてあったし、侵入されたような形跡は無かったんです」
気味が悪くなった宮野さんは、換気をしようとキッチンの窓に近づいた。すると、すりガラスの向こうに一瞬、人の輪郭が浮かんだ。
宮野さんが近寄ると、その人影は窓の下に隠れるように消えた。
一瞬の出来事に唖然としていると、宮野さんのスマホが鳴った。
彼の友人からだった。
「もしもし」
『ああ宮野、ちょっと聞きたい事あるんだけど今だいじょぶ?』
「うん?どした?」
『こないだの合コンに来たアオイちゃんって子、音信不通で大学にも来てないんだって。お前のとこに来てないか?』
「いや……来てないし、もう連絡も取ってない……」
『そっか、まぁそれだけなんだ。アオイちゃんから連絡あったら教えて』
嫌な予感がした。
不安に駆られた宮野さんは、意を決してアオイに電話をかけた。
レディースの香水って普段の会話で言うかな?なんかそこが不自然な感じ。
甘い香水の匂いって言う方がリアルな感じ。個人的に。
暴走族の香り?
具体的な名前書けないからでしょうね。
奥さんは具体的な香水名聞いたんじゃない?