そんな義理の母親の怨霊が、今でもその土地に居座り続けているようなのですが、
その土地には、嫁ぎ先の一家を滅ぼした、顔だけの女性の怨念が、今でも残っているようでようで、
その合宿に参加していた、Hくんのお父さんが個人で経営していた酒屋さんが、十数年後に、ライバルの酒屋さんに、次々と顧客を奪われて廃業したそうです。
そして、その合宿に参加していた指導者の男性が、数年後に重度の喘息にかかり、空気のきれいな山の中に移り住まなければならなくなりました。
やがてその男性は、移住先で借金を重ねるようになり、あらゆる友人や知人から見放され、失意のうちに亡くなったそうです。
そしてその合宿には、会長と、十歳の息子さんが参加していたのですが、その十数年後に、息子さんが病気のために亡くなりました。
会長はその数日後に、息子さんを失った悲しみに、衰弱しながら亡くなってしまったそうです。
三つの家族に起きた不幸な出来事の全ての原因が、霊障によるものだとは言い切れないのですが、
その人達が、顔だけの女性の幽霊に呪われてしまった理由は、
その女性の幽霊が、雨戸の閉められた部屋に集めていた大量の蝉の亡骸を、一つ残らず、箒で掃き出してしまったからのようです。
その後私の前に、その幽霊が現れることは無かったのですが、その合宿を終えたあたりから、私の夢の中に、顔の無い女性の幽霊が現れるようになりました。
その夢は、灰色の空の広がる薄暗い川原の夢で、
そんな川原の風景の、奥の方から手前に向かって、ゆるやかな仄暗い川が流れていました。
その川の右側に黒い森が広がっていて、その川の左側の開けた場所に、黒髪に白い肌の、灰色の着物を着た見知らぬ女性が立っていました。
そんな女性の白い顔に、まるで何かにえぐり取られたような、大きな穴があいていて、その穴の内側の一面が、血のような赤黒い色をしていました。
その傷は、崖のような高い場所から転落したさいに、大きな石に顔をぶつけて潰れたような傷なのですが、
その女性の体には特に目立った傷があるわけでも無く、その着物が、血や泥で汚れているわけでも無いようで、
その川原の周辺に、転落事故や、落石が起きそうな、崖のような高い場所は、どこにも見当たりませんでした。
その女性に恨みをいだいた誰かが、大きな石を振り上げて、その女性の顔に振り下ろしたのかも知れないのですが、
それならば、自分の命を奪った相手の枕元に立てばいいだけで、
その女性の亡骸が、長い間、うつぶせの状態で、川の水面に顔だけがつかったままになっていて、崩れ去ったのかも知れないのですが、
その女性の前髪や、着物のえり元が、濡れているわけでもありませんでした。
野山にいる飢えた獣が、屍骸の顔だけを食べる訳も無いようで、
結局私は、その幽霊にどうして顔が無いのかと言う事を、知ることができなかったのですが、
そんな顔を失くした女性の幽霊が、夢の中の、灰色をした寂しい川原で、
目玉も鼻骨も歯も見当たら無い、虚ろになったその顔で、静かに私を見つめているのでした。
私はその夢を十数年の間に、七回ほど見ただけで、
その後あの幽霊がどこへ行ったのか、今は誰の夢に現れ続けているのかと言う事は、何一つ分からないのですが、
そんな顔の無い幽霊も、あの川の顔だけの幽霊も、決して出会ってはいけない不吉なモノであると言う事は間違いないようです。
私は時々、顔だけの幽霊が現れたあの川が、有名な心霊スポットなのかも知れないと思いながら、あの合宿場を探してみるのですが、
その度に、その場所を覚えていなくてよかったと、思い直してい
ます。



























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