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妖怪・風習・伝奇

sainasさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

顔を失くした女の幽霊
長編 2026/08/04 08:37 76view

私が、その合宿場を訪れたのは一度だけで、今でもその場所があるのかと言う事も、
あの川に、今でも顔だけの幽霊が現れ続けているのかと言う事も、何一つ分からないのですが、
あの川に現れた幽霊は、長い間、川の中に遺体を放置されていた女性の幽霊のようです。
その女性の遺体の顔だけが、水面から出ていたようで、
やがて、水面から出ている顔の部分と、水中に沈んでいる部分の、腐敗する速度に違いが生まれたために、
遺体の顔の表面と前髪が、お面のように、はがれて浮かんで流されてしまったようです。
その様子を見ていた女性の幽霊は、わめきながら、流された自分の顔を元の場所に戻そうと、何度もあがいてみたのですが、その顔を元に戻す事はできませんでした。
やがて女性の幽霊は、もうすでに存在していない、自分の顔を背負いながら、遺体が沈んでいた所まで運び続ける、人魂の姿に変わってしまったようです。

今から三十五年前の、私達がその合宿場に到着した、その日の夕方に、
建物の奥の部屋で大人達が宴会を楽しんでいて、その場所から少し離れた、中庭に面した水場で、

MくんとNくんをふくめた数人の男の子が、水の中に放り込んだ死にかけのセミに、勢いよく水をかけて遊んでいたのですが、
そんな男の子達の騒ぐ様子に激怒した、会長が、その場所にいた男の子達の左のほほを、次々と平手で叩いていきました。
私は、悪ふざけをしていた男の子達を、注意していただけなのですが、
お酒に酔った会長は、鬼のような顔をすると、今度は私の右のほほを、平手の甲の硬い所で思い切り叩きつけました。
そんな会長の姿に、顔を失くした幽霊が刺激されてしまったようで、
その女性は生前に、子供の頃から、喘息のような呼吸器の病気にかかっていたようで、
雨戸の閉じられた暗い部屋に閉じこもりながら、生まれ変わりや、恋愛や、明るい外の世界に、あこがれていたようです。
その女性が、生まれ変わりや、不老長寿の象徴であるセミの霊力にあやかろうとしていたのか、
その亡骸の一つ一つに、自分の願望を封じ込めていたのかは分からないのですが、
気が付けばその部屋の床一面が、庭先で拾い集めた、セミの屍骸で埋め尽くされていて、

そんな女性の両親が、娘の将来を心配して、大切なセミの亡骸を度々捨ててしまうのですが、
その女性はその度に、激しい怒りや強い恨みをいだきながら、その怨念を自分の中にため込んでいたようです。
そんな女性も年頃になると、嫁ぎ先が決まり、実家から離れる事になるのですが、
その女性は、持病のために、あまり働くことができない上に、おとなしくて暗い性格をしていたので、
嫁ぎ先の義母から事あるごとに「ここから出て行け!」と罵られ、お酒に酔った義父や夫から、いわれのない暴力を振るわれていたようです。
そんな女性の亡骸が、嫁ぎ先の家の近くにある川に、ずっと置き去りにされていた理由は分からないのですが、
そんな不自然な亡くなり方をした女性の幽霊が、怒りや悲しみの表情では無く、恥ずかしそうに笑っていたのは、
その女性が生前に、いつも作り笑いをしなければならなかったから、なんだと思います。
やがて、嫁ぎ先の一家は、その女性の呪いによって、あらゆる人脈と家財を失い、その家の跡取りまでも亡くしてしまうのですが、
女性の義理の父親は、跡取りを失くした悲しみに衰弱しながら死に絶え、
女性の義理の母親は、その家が途絶える原因になった、嫁の事を恨みながら、鬼のような形相で死に絶えたんだと思います。

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