「なんだそれ」
「変過ぎてさ・・・しばらく見てたんだよ・・・そしたらさ、その女、今助けるから!! 今助けるから!!って叫んで洗濯機の中に上半身突っ込む勢いで手を入れてさ、中から大きなクマのぬいぐるみを引き出してさ・・・それをぎゅうって抱きしめて縁側まで持ってきて・・・そこに子供用の布団みたいなのがあって、ぬいぐるみをそこに寝かせはじめたんだよ」
「はぁ??」
「で、ぬいぐるみに人工呼吸みたいなことして覆いかぶさって・・・心臓の音聞いたり・・・で、あたり一面びしゃびしゃになってて・・・布団も、縁側も・・・」
「・・・」俺はもう言葉もなく友人の話を聞いていた。
「その女、しばらくぬいぐるみに覆いかぶさってたと思ったら突然立ちあがって、そのクマのぬいぐるみを洗濯機に投げ入れて、また洗濯しだすんだよ・・・そしてしばらくしたらまた、今助けるから!! 今助けるから!!って叫びながらぬいぐるみを掬い上げて・・・同じことの繰り返し。何度も何度も」
「えっ、その家がビショビショなのって・・・それが理由なのか??」
友人はコクっとうなずいて、さら暗い顔で話をつづけた。
「オレ・・・呆気に取られてその様子をずっと見てたんだよ。そしたら、女と目が合っちゃって」
「うわっ、見てたのバレたんか」
「うん・・・そしたら、その女が大声でさ、オマエ、見てたんだろ!!見てたんならなぜ助けなかった!! この人殺しー!!・・・って指さして来てさ・・・もうすごい表情なんだよ・・・人間ってあんな怖い顔できるのかって思うくらいの顔でさ、今思い出しても背筋がぞっとするんだ」
「ひでぇな・・・災難だな・・・」
「オレ、慌てて部屋に逃げて、カーテン閉めて、部屋の中で丸まってじっとしてたんだ。・・・そしたら今度は外からママ~~助けて~~ママ~~助けてって言いながら泣いてる子供の声がするんだよ」
「こ、子供??」
「カーテン開けて、ベランダ窓からちょっとだけ外をのぞいて見てみたんだ。・・・そしたらさ、あの女がさ、庭にぼーっと立ったまま泣いてんだよ。子供かと思ったらその女の声だったんだよ。子供みたいに泣きながら、今度は庭をぐるぐる駆け回るんだよ」
「ひっ・・・」さすがのオレもかける言葉もなくぞっとした。
友人はこのことを不動産屋に連絡したが、別にアパートが事故物件なわけではないので、告知する義務もないし他人のプライバシーには踏み込めないと突っぱねられたらしい。
あの女は、おそらく洗濯機の中に転落する事故かなにかで子供を失ってしまい、それを悔やんで毎日毎日あんなことをしているのだろう。
悲しい話だが、だからと言ってこれは耐え難い。
ひとしきり友人の話を聞いて、オレは言った。
「引っ越し手伝ってやるからよ、早く出ろ、そのアパート」
友人は力なくコクっとうなづいた。



























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