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心霊

山科文字さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

生きて、いない
長編 2026/08/01 00:01 73view

「私が働いているとこ」

木製の扉を開け、ほのかな紫色の照明がついた薄暗い店内に入る。
煙草の煙だろうか、まるで霧のようなぼやけた空気の向こうで、カウンター越しにガタイのいい男がこちらを睨んでいた。他に客もいないようで、居心地の悪さを感じる。

シノさんは店内の奥まった場所にあるテーブル席のソファに私を案内すると、カウンターから慣れた手つきで酒瓶を何種類か持ってきて、隣に座ってグラスを満たす。そのうちの一つを私にもよこした。

「さっき奢ってもらったし、ここのお代はいらないから」

何杯か飲んだ後、彼女はしなだれるようにして私に寄りかかって、私の手をとる。
と、そのまま私の手を彼女の額にあてた。二つの小さな出っ張りを感じる。気になっていた、彼女の「角」だ。存外に固く、まるで皮膚の下に骨があるようだ。

「これ、本物なんだ」

え?と私が間抜けな声を発すると、私の手をとったまま、顔を撫でさせる。彼女が言葉を発するたびに、手に息が吹きかかってこそばゆい。

「このタトゥーも、ピアスも、髪の色も、全部この角を隠すため」

そして、彼女は私の手を離すと、語り始めた。

◇ ◇ ◇

シノさんは幼少期から慢性的な頭痛に襲われていた。
医者に見せても原因がわからず、苦痛を耐え抜く日々であったが、小学三年生の時、それまでの人生で最も強烈な痛みがシノさんを襲った。

それは曽祖母の葬式の場でのことであった。
頭が割れて脳が破裂するような痛みで、シノさんはその場に倒れ嘔吐した。
親族は突然のことに驚き何事か語りかけるものの答える気力もない。ただ苦痛に泣き叫び、自分の吐瀉物に塗れながらのたうち回るうちに気絶した。母親はそれを見て、咄嗟に「おばあちゃんが連れて行こうとしている」と思ったそうだ。あわててシノさんを抱えてその場を立ち去り、病院へ向かった。

意識を取り戻したのは3日後のことだ。病院のベッドで目覚めるとそれまで感じたことのない晴れやかな感覚があった。頭痛がないのだ。そばにいた両親にそのことを伝えると、元気な姿に喜びはしたものの自分を見る顔が不安げであった。不思議に思って鏡を見ると、自分の額に二つ角が生えていた。

そして鏡に見える自分の肩越しに、恐ろしい形相をした曽祖母の顔も見てとれた。

それから、彼女にはこの世のものではない者たちが見えるようになった。外を歩けば生きている人間とは全く違う気配の異形の者が徘徊している。あまりに違う世界を見ているため普通の子とも話が合わなくなって学校にも行かなくなった。両親も口には出さないものの自分を気味悪がっているように感じられて家にもいつかなくなり、友達の家を転々とするようになった。

中学を卒業する頃には悪い友達ともつるむようになる。タトゥーやピアスに塗れた人たちの中であれば、自分の角もファッションの一つだと考えるようになって居心地が良かった。そのうちに身体を売って金銭を貯め、角を隠すように自分自身もタトゥーやピアスを顔面に施し始めた。

しかし自分の顔や身体を改造すればするほど、客がつきにくくなる。金は無くなっていく一方で、どうやって稼ごうか悩んでいた時、仲間内の一人から仕事を紹介された。
物好きと言うか変態というか、とにかく評判の悪い客ではあるのだが、一晩自由に身体を使わせれば200万ほど手に入るというのだ。

改造のため何人からも借金していたシノさんにとって、大金は喉から手が出るほど欲しいものだったが、その仕事を紹介した人物ですらあまりおすすめしようとは思わない案件ではあったという。悩んだが結局は金が必要なため、その仕事を受けることにした。

指示された場所は都心に隠れたなんてことはないマンションだった。しかし、人の住んでいる気配がなく、『何かのためだけに作られた建物』という印象だったそうだ。
エントランスで出迎えたのは初老の物腰柔らかな男性で少し安心したものの、案内された部屋には十数人の男性が待ち構えていた。複数人を相手するのかとげんなりしたが、ある程度は予想していたことだ。緊張していたところ、初老の老人が近づいてきて、今回の報酬金を手渡すとともにこれからのことについて話してきた。しかし、その内容は予想していたものとは全く別のことであった。

これから連れてくる少女とまぐわって欲しいというのだ。

なんだそんなことか、と思って一人ベッドに横になる。こちらを見る何人もの男の視線が気持ち悪いが、意識して視界に入れないようにする。とりあえずこの一夜を乗り越えればそれで万事解決だ。

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