今から約10年前、仕事帰りに一杯やった私は明日が休みということもあって二軒目を求め、駅前の喧騒を少し離れた場所にある寂れた居酒屋へ入って行った。
店内はそこそこ人がいる状況で、1人客ということもあって店内のカウンターに案内された。
隣の席には、若い女性が一人で酒を飲んでおり、もう何杯か飲んだのであろう、酩酊状態であった。
私は悪いと思いつつも、チラチラと横目で女性の姿を見てしまう。というのも、その女性は奇抜な格好で、浮世離れしたオーラを纏っていたからだ。ピンクに染めたショートヘアーにダメージの入ったライダースジャケット。そして何より目を引いたのはタトゥーやピアスが多く施された東南アジアを思わせる異国な顔。そしてその額に2本の角のようなものがある。おそらくこれもファッションの一つなのだろうが、あまりに普段目にしない格好のため、つい盗み見てしまう。
「気になる?」
突然、その女性が言う。顔を正面に向けたままの言葉だったので、私はそれが自分に向けられた言葉だと分からなかった。
「さっきから見てくるけど」
今度は私の方に顔を向けて話す。正面から見るとカラーコンタクトを入れているのか目が深海を思わせる仄暗い青に染まっており、なおさら現実離れした印象を抱いた。
私は慌てて無礼を詫びる。
「す、すいません。失礼だとは思っていたのですが、つい……」
彼女は私の言葉に興味もなさそうに、手元のハイボールを仰ぐ。
「別に。慣れてるから」
しばらくまた各々の酒に戻る。だが、私はアルコールの作用もあって、一度話しかけてきた彼女のことが気になって仕方がなくなっていた。
「あの、先ほど失礼を働いてしまった手前申し訳ないんですが、よければお話ししませんか?」
彼女はチラとこちらを見てから一言、
「いいよ」
と呟くように言った。
つい嬉しくなって、私がまず自分の身の上などを話すと、彼女もそっけない態度がだんだんと崩れ、ぽつぽつと自分のことについて語っていった。
彼女は、シノ、と名乗った。どう書くかは分からない。
普段は、バーの店員として働いているそうだが、変わった一面もある。それが「怪談師」としての仕事だ。
自分の身の回りで起きた怖いこと、不思議なことをまとめて、時にバーのイベントとして、時にテレビや雑誌のホラー特集として怖い話を語るらしい。
「あなたは、怖いのは好き?何か怪談、語ってみてよ」
突然の質問にしばし躊躇するも、「それを生業とする人の前では怖くもなんともないでしょうが」と前置きして自分に起きた怖い話一つ語る。すると彼女はそれを気に入ったらしく、私にも怪談を披露してくれるという。
「いくつかあるんだけど、どれがいい?一個は客の前でする定番の怖い話。もう一つは、私自身が体験した、最も怖い話」
そんなの決まっている、と私は後者を選択する。しばらく無言の時間が続いて、「なら、」と
「ここでは言えないような話なの。店を移そうか」
と立ち上がった。私は慌てて、彼女の伝票も手に取り会計を済ます。外に出ると煙草を燻らした彼女が「ありがと」とだけいって夜道を歩き出して行った。
彼女についていって歩くこと20分ほど、その間少し緊張して無言が続く。
もしや、これから犯罪に巻き込まれるのでは?という不安が渦巻く。それもひとえに彼女の奇抜な格好やタトゥーなどが原因なのだが、騙されたならそれも経験だと言い聞かせ、彼女の隣を歩き続ける。
飲屋街から離れ、住宅街を練り歩く。街灯もぽつぽつとしかない中、気づけばアーケード状になった洞窟を思わせる小道に入り、ひっそりとネオンを灯らすバーの前に来ていた。
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。