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呪い・祟り

本宮晃樹さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

幸せ売ります
長編 2026/07/26 17:20 194view

 1年くらい前に、古い友だちから連絡があってね。川合君っていうんだけど。

 20代前半くらいまではほとんど毎週一緒に遊んでた奴で、ちょっと常人には考えつかないような意表を突くボケをかましたりするもんだから仲間内でも重宝されてて、一家に一台川合君、みたいな感じで引っ張りダコだった。
 
 一見たれ目で柔和な表情をした純朴な好青年っていう印象なんだけど、合コンの帰りに当然の権利を行使するみたいに飲酒運転をやらかしたり、「俺ゴムなんてつけたことがねえ」なんていう聞き捨てならないポリシーを臆面もなく公言したり、ドライブ中に車を路肩に停めて、〈ケツメイシ〉の〈花鳥風月〉を空気が振動するくらいの爆音で聞き入ったり、とにかくネタの宝庫みたいなキャラだったのね。
 そんな彼も23歳でできちゃった婚に――標榜してたポリシーからすれば必然的ななりゆきで――めでたく相成り、徐々に俺たち独身グループから離れてった。何度誘っても子どもや仕事が忙しいの一点張りで、付き合いがなくなっちゃったわけ。

 でもこれって単にライフステージが変わったせいだけじゃなくて、もともと川合君と俺たちのあいだでちょっとした価値観の違いみたいなのがあったのかもしれないね。誤解のないよう伝えられるか自信がないんだけど、たとえば歳をとると自然に消費する娯楽って変わってくもんだよな。
 10代のころは〈ブギーポップは笑わない〉とか〈キノの旅〉なんかを読んでた俺も、いまは〈モンテ・クリスト伯〉とか〈白い巨塔〉なんかじゃないとアホらしくて読んでられないわけ。これは〈高尚な文学作品読破自慢乙〉とかじゃなくて、自然とそうなると思うんだよ。
 通勤電車で若い女の子が乳ほっぽらかしてるラノベの表紙を広げるわけにはいかんっていう事情もあるけど、ラノベはティーンエイジャー向けに書かれてるから、アラフォーの俺からすると単にカテゴリエラーになるってだけの話。まあラノベのメイン読者層が実は30~40代の男性だっていう笑えないオチがあるんだけれども……。

 つまんない話が続いて申しわけない。俺が言いたかったのは、川合君は歳をとっても〈ブギーポップ〉を読んでるタイプで、俺たちは年相応に〈白い巨塔〉を読むタイプだったっていう、ただそれだけの話。
 そういう差異が結果的に、彼と俺たちの断絶を生んだんじゃないかな。別にインテリぶるつもりはないけどね。

     *     *     *

 発端はうちの実家にかかってきた電話だった。

 川合君と縁が切れたのがだいたい15年くらい前で、そのあいだ俺のスマホは何度も代替わりする破目に陥ってた。ほとんどが登山中の水没だったんだけどね。そういうゴタゴタをくり返すうちに、頻繁に連絡してない幽霊LINEアカウントはどんどん淘汰されていったわけ。そういうゼノサイドを川合君のアカウントは当然乗り越えられなくて、いつの間にか消えちゃってた。
 こんな事情だから俺には直接連絡できなかったんだろう、まずは実家のほうに電話があったらしい。母親が出たんだけど、「なるべく早く俺(投稿主のことね)と連絡とりたいからこの電話番号にかけてくれ」って早口でまくし立てて、携帯の番号を告げたんだと。

 川合君はうちにもよく遊びにきてたから母親も覚えてて、すぐに知らせてくれた。「なんや知らん、えらい急いでござったけどねえ」とは母親の談。
 それを聞いたとき、正直に言って「めんどくさ」って思ったね。長らく縁の切れてた友だちから久しぶりに連絡があった場合に考えられる用事は、だいたい次の通りだと相場が決まってる。①お金の無心、②マルチ商法のターゲット、③宗教の勧誘のどれか。

 これと似たような経験が過去にあってさ。7~8年くらい前、藤堂って奴から数年ぶりくらいに連絡があったんだけど、案の定用事は①のお金の無心だった。消防団を抜けるための罰則金が支払えないから6万円貸してくれ、月割りで少しずつ返すから頼む……!
 貸したよ。こいつには以前、車の任意保険用として20万円(未返済)も貸してたけどね。LINEで借用書みたいなのを作っていついつまでに全額返済することって約束させた。オチは書くまでもないだろうけど、1円も返さずに出奔。いまごろどこでなにをしているやら。

 まあそういう事情があったから、自衛のためにリサーチすることにした。川合君は持ち家を若いころに買ってたんだけど、とりあえずグーグルマップで住所を検索してみたのね。するとまあ怪しいこと怪しいこと。家の庭の写真にさ、〈売家〉の文字が書かれた看板がぶっ刺さってんの。
 マイホームを手放すパターンで考えられるのは、①住宅ローン返済が滞って銀行に差し押さえられた、②離婚して必要がなくなったので売却した、のどっちか。どちらにせよ目ン玉飛び出るくらいの残債を抱えてるはずだ。そうなると川合君の急ぎの用事ってのがどんなだか、聞かなくても想像はつく。
 でもたとえお金の無心だったとしても、一時期は一緒にバーベキューしたり合コンにいったり池田山の夜景を見にいったりした仲だからね。とりあえず話だけは聞いてみることにしたのさ。

     *     *     *

 電話口で開口一番、川合君は「たっちゃん、できるだけ早く会えん?」と食い気味に持ちかけてきた。「久しぶり」も「どう最近?」もなく、いきなりコレ。
「電話であかんのか」とやんわり逃げても、「あかん」の一点張り。「俺愛知県に引っ越したけど、どこで会おうかねえ」と難色を示しても、「どこでもたっちゃんの指定するとこに行く」と頑張る。川合君も俺も岐阜県のド田舎出身だから、こっちにきてもらうなら車で2時間近くはかかるんだよね。
 この必死さは絶対お金の無心だなとは思ったけど、乗りかかった舟だし旧友だし、会ってみることにした。川合君がこの15年でどんな変貌を遂げたのか、興味もあった。

     *     *     *

 で、当日、俺の住まいの近くにあるコメダ珈琲で落ち合ったわけさ。
 驚いたよ。てっきり困窮した見るも無残な哀れ、アラフォー男性! みたいなのを想像してたのに、どっこい羽振りのよさそうなことよさそうなこと。えらいオシャレな服着てるからどこのメーカーか聞いたら、アルマーニだって。いや、普段着にアルマーニて。
 腕時計もロレックスだし、そういえばコメダの駐車場にピカピカのアルファードが停まってた。たぶん川合君の車なんだろうね。そうなるとお金の無心じゃなくてマルチ商法の勧誘かもしれないって、俺は覚悟を決めた。ほら、連中が弄する典型的な手口があるやん?「マルチをやるとこんなものが買えちゃいますよ、アナタもやってみない?」的な。

「久しぶり、何年ぶりやろね」俺は全身是ブランド品の川合君をじろじろ見ながら、「なんか知らんけど、どら羽振りよさそうやね」
「前借りしとるからね、そらね」
 川合君は意味深なセリフをごにょごにょつぶやいた。〈前借り〉の部分に食いついたが最後、怒涛の勧誘が始まるとみて、ひとまずスルー。
「うちの実家にまで電話かけてきたらしいやん、なんやった?」
「たっちゃん、いま幸せ?」

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