1時間ほどしていつの間にか小暮は体育座りをして
顔を覆っていた。
突如前触れもなく呟きだした。
「君江。そこにいるんだろ?」
止まってた空気が急に動き出すような、
形容しがたい歪みが部屋全体に伝う。
「君江。メシはまだか。腹減っちまった」
誰かに話しかけているが部屋には小暮しかいない。
「まーたそうやって怒る。定時でまっすぐ家に帰ってるじゃないか。君江が寂しがるから」
小暮は思い出したかのように立ち上がる。
部屋は暗いままだったが迷うことなくカバンを
見つけ出し何かを取り出す。
「保湿のフェイスパック買ったよ。お気に入りの香水も買った。ケーキも君の好きなレアチーズだ。DVDでも見ながら食べよう。熱い恋愛もののやつまだ見てなかったよな?」
小暮はDVDを入れて大音量で流す。
小暮はこの日初めて笑った。
「お、機嫌直してくれたかい。よかったよかった。週末はどこに行きたいかって? どこへでも行くよ」
ソファは小暮の彼女、君江が置いていったものだ。
DVDは君江が持って帰ったが、小暮はわざわざ買って家に置いている。
壁には君江が組み立てた一匹オオカミの
ジグソーパズルが飾られている。
鍵のフォルダーは小暮の誕生日に貰ったものを
今も使い続けている。
ふたつあるグラスは君江の趣味で買った
お揃いの物。
油防止カバーシートは2枚重なったものだが剥がされることもなく君江が家にいたときのままだ。
台所で赤ワインを汲む小暮だったが、
その赤ワインは君江が苦手とするブランドだった。
テーブルにふたつグラスを置き一つを誰かに渡す
素振りをみせる。
テーブルの上はヘアゴムが置いてあるが、
そのヘアゴムは真新しいものだった。





















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